2022.11.21
人財開発

業績を上げる発想の出し方〜社員が優秀でも売り上げが上がらない組織の処方箋

■    ある販社の経営者が持っていた"売れない"という悩み

コロナ禍、DX、原材料の値上げ...

市場環境がますます厳しくなる中、
ライバルの攻勢があり、またEコマースも台頭して、
「販路が開拓できない」「お客様が逃げていく」と、
経営者が手詰まり感を抱いていることが大半です。

弊社クライアント企業の1つ、
大手家電メーカー系列の販社の社長は、
「今までと同じやり方では売れない」と実感していました。

このままでは、売り上げがジリ貧になるとの予測の中、
これまでとは違う戦い方をしなければならない」
との危機感を抱いていたのです。

さらに社長は「単に営業手法を改善するのでは意味がない。
それでは小手先での対応にすぎない」と強く思い、
弊社に相談が来たのです。

「新しい商材、販路、顧客を生み出せるようにして欲しい。
そのためには、まずロジカルに得意先を説得できるようにして欲しいのです」
との課題解決の依頼をいただきました。

現状維持では敗北だ」ということ、
さらに「手法を変えるのではなく"ヒト"を変えて欲しい」との、
理念に近い明快な方針を打ち出されたのです。

このように、自社の問題点を正しく深掘りでき、
伝えてくる経営者はほとんどいません。

さすがは、伝統的に人を大事にする大企業のグループ会社の、
経営の舵取りをしている社長だな、と感心したものです。

どの企業においても、事業本部長、部長クラスの、
中堅幹部またはその候補が、
企業の次世代を担うのは明白です。
この世代、この職層が企業の浮沈の鍵になるのです。

■    人材を研修するのではなく"人財を開発"する

これを受けて設計したのが「基礎と応用、計画作成、プレゼンテーション」の、
3部構成のプログラムでした。

まずは、ロジカルシンキングとマーケティングについて「基礎固め」の講義と、グループワークでの「自分ごと化」です。

次に、参加者10名のそれぞれの「中期事業計画」を、
私が伴走しながら作成します。

これまで断片的には知っていた「3C分析」や「ターゲット設定」などの手法を、
"売れる計画"の一連の流れの中に組み込んでいきます。

最後に、学びの結果を実らせるために、
作成した計画を経営陣にプレゼンテーションしてもらいます。

研修の方針は、
「座学だけでは意味がない。書き、発言し、ディスカッションする」
というアウトプット中心の"アクティブラーニング"です。

最初は不慣れだった営業リーダーたちも、
それぞれが知恵を出し「考え抜く」スタイルが取れるようになってきました。

半年の研修後、各位が事業計画のプレゼンテーションをした際に、
経営陣からは「愛あるダメ出し」が多く出ました。
知らない人が見たら、叱責に聞こえるくらい激しい口調のこともありました。

しかし、この会社のすごいところは、各位それにめげるどころか、
モチベーションをあげて実務に戻ったのです。

もちろん、これで学びが終了というわけではありません。

この企業の人事部長から「先日の第1フェイズで基礎を固め、
事業計画を作成することはできるようになりました」、
「そこで、次は"考える""工夫する"ことをテーマに、
第2フェイズをお願いできませんか」
との依頼があったのです。

今回の課題は「現状維持からの脱却」です。
したがって、昨年の数字を安易ならべて計画を作る、
というような研修をやっても意味がありません。

工夫を繰り返し、手を汚しながら、
道無き道を切り開く」という内容が必要になるのです。

このような場合には「業界脳」から抜け出ることが必要です。
なので、視点を変えてこの企業は異なる業界、
業種を取り上げて発想を広げるトレーニングをすることにしました。

そこで取り入れたのが「ケーススタディ」という手法です。
ケーススタディとは、実際のできごとを使い、
問題の体系化や解決に必要な力をつける学習方法です。

自主的に分析、シミュレーションをすることで、
経営の意思決定ができる力をつけることを目的とします。

「UBER:Changing The Way The World Moves」の日本語版、「ウーバー:世界の移動手段を変革する」という、ハーバードビジネススクールのケーススタディを使い、3グループに分けて研修を半年実施しプレゼンテーションをします。

私がいつも教鞭をとっている関西学院大学のビジネススクールで、
MBA候補の学生に向けて最終プレゼンテーションの課題としている、
ケーススタディ分析の営業幹部版といった具合です。

私が出したお題は、以下のような形です。

各チームは、自分たちがUBER JAPANの支社長およびマネジメントチームだと仮定します。UBERの日本市場での事業計画を作成し、
UBER米国本社のCEOにプレゼンをする、
というシチュエーション設定で実施したのです。

具体的には、この第2フェイズ全体を3つのクールに分けて、
次のことを分析し、最終的にチームで案を作成し発表します。


- UBERのPEST分析、SWOT分析、3C分析
- UBERの料金や課金の仕組み、スマホでの扱い方などについて
- UBERの2種類のお客様は誰で、彼らにとっての顧客価値は何か?
- なぜ、UBERはアメリカでこれほど早く消費者に評価されて広まったのか?
- なぜ、UBERはテレビや新聞などメディアの注目を集め、話題になったのか?
- UBERが日本市場に進出しようとした時に障害になったことを調べる
- UBERが今日本で展開しているビジネスについて調べる
- UBERが米国以外、特にアジアで展開しているビジネスについて調べる

前半の分析段階では、インターネット検索、図書館に行く、
知っていそうな人にきいてみるなど自分自身で工夫をしてもらいます。

今回、ケーススタディで研修をする目的は、
「事例で新規事業を生み出すことを疑似体験することで、
"生み出す力=創造力"をつけてもらう」ことにあります。

最初は、自分の担当業務と異なる業界、やったことのないアプローチに対して、
最初は戸惑っていましたが、徐々に自由な発想ができるようになり、
生き生きと準備をして研修に臨むようになりました。

何事もゼロから生み出すのは難しいものです。
しかし、トレーニングをすればできるようになるものでもあります。
その一つの手法がケーススタディなのです。

最終日には、3チームとも自分たちがいる製造業の卸売とは全く異なる課題設定、解決策、行動計画を出し堂々とプレゼンテーションをしていました。

■    売れない問題を解決するために必要な姿勢

冒頭でも書いたように、コロナ禍やウクライナ情勢などで市場が激変した今、
売れない問題が今までとは大きく異なっています。

その解決のために必要なことは「視野を広く、視座を高く」持つこと。

経験だけに頼ることなく、必要な情報を集め自分たちで工夫し、
組織として対応できるかどうか、が必要です。

また、自分の役職や職責にこだわることなく、
「もし自分が社長だったら」「損益に責任を持っていたら」という、
視座を上げた目線で考える習慣をつけることが、成果につながります。

これらは一朝一夕でできることではありません。
いたずらに「視野を広げよ」と部下に指示をしても、
できるようになるわけではないのです。

広い視野、高い視座に立つ人財を開発するには、
基礎を固め、自分に応用する力をつけ、さらにその力を発展させる、
という3つのステップを踏むことが効果的なのです。

今回説明したケーススタディでの学びは、
その3段階目に効果を発揮するアプローチなのです。

マーケティングアイズ株式会社
理央 周

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