値上げ交渉が通らない理由とは?中小企業が利益を守るための価格改定戦略

多くの経営者が悩む「値上げ」には、実は本質的なポイントがあるのです。
「値上げしたいけど、できない...」
「顧客が離れるのが怖い...」
「でも、このままでは利益が出ない」
こんな悩みを抱えている経営者の方から、よく相談をいただきます。
実は、値上げって「高く売ること」ではないのです。
この記事では、値上げに対する考え方を180度変え、値上げをするには何が必要なのか、について気づきを得てください。
- 目次
◾️ 値上げできない、という「思い込み」
「値上げ」できないという相談を多くいただくのは、製造業の経営者からです。
詳しく聞いてみると、こんな声が聞こえてきます:
「原価が上がって苦しいけど、顧客に値上げを言い出せない」
「値上げしたら他社に取られてしまうのではないか」
「顧客が納得してくれないから」
これらは、実は思い込みなのです。
「顧客は高くなると買わないのではないか」という前提は、本当でしょうか?
値上げをするかどうかを悩む人、というのは、橋のない川を前にして、
「向こう岸に行きたいけど、渡れなかったらどうしよう」
と悩んでいる旅人みたいなものです。
本来大事なのは、「川を渡れるかどうか」ではなく、
「どうやって川を渡るか」
すなわち、価値を伝える準備ができているかなのです。
つまり、値上げそのものがリスクなのではなく、「価値を伝えないこと」、そしてそのまま利益が下がることこそがリスクなのです。
◾️ 値上げを断られる経営者の共通点
これまで多くの企業を支援してきた中で、値上げを断られる経営者には明確な共通点があります。
それは、自分から値上げを諦めているということです。
「どうせダメだろう」
「競合他社に乗り換えられる」
「不景気だから無理だろう」
こんな風に、顧客に聞く前から勝手に答えを決めつけているのです。
ここで、視点を変えて考えてみましょう。あなたも消費者として、商品やサービスの値上げを経験したことがあるはずです。コンビニ弁当、電気代、ガソリン代...みんな値上げしてます。でも、必要であればそれらを書い続けているはずです。
値上げすることでの顧客離れを恐れることは、「ラーメン屋が材料を良くして、味を改良したのに、値段据え置きにし、潰れてしまう」ようなものです。自信を持ってスープを改良して、チャーシューも良くなった。なのに、「顧客が離れたら怖い」と思って値上げをせず、結局利益が出ずに潰れてしまう...。
価格は「価値の格」と書きます。
「いいものには、正しい価値を」と伝えるのも、プロとしての責任です。
◾️ 値上げの本質を理解する
値上げ自体は決して不可能なことではありません。問題は、そのやり方なのです。
値上げを成功させるには、値上げの本質を理解することから始めるといいでしょう。
多くの人は、値上げを「高く値段をつけること」だと思いこんでいます。これが間違いなのです。
値上げとは、価値を上げることです。
顧客が「高い」と感じるのは、価格に対して価値が見合わないと感じるからです。
逆に言えば、価値が価格を上回れば、顧客は喜んで払ってくれます。
実際の製造業での事例をお話しします。
ある町工場では、従来1個100円で販売していた部品を、材料費高騰で120円にしたいと考えていました。しかし、単純に「材料費が上がったので20円値上げします」では通りません。そこで社長は、お客様の工場に足を運んで、自社の部品がどう使われているかを徹底的に調べたのです。
すると、自社の部品の精度が0.1ミリでも向上すれば、顧客の不良品率が大幅に下がることがわかりました。この点をアピールしつつ、値上げ提案をした結果、値上げに成功できたのです。
なぜでしょうか?それは"価値を上げた"からです。
お客様が欲しかったのは、部品ではなく、
「不良率を下げること」
だったのです。
このように、企業が売りたいものと、顧客が欲しいものは根本的に異なります。
顧客が本当に欲しい「顧客価値」を徹底的に掘り下げることが、重要なのです。
◾️ 価値を上げる3つのポイント
値上げを成功に導く"価値の上げ方"には、3つのポイントがあります。
1. 顧客の状況を徹底的に理解する
顧客が本当に困っていることは何か?あなたの商品・サービスで、顧客のどんな課題が解決できるのか?これを表面的ではなく、深く掘り下げて理解することです。
先ほどの町工場の例も、「部品を売る」のではなく「不良品率を下げる」という顧客の課題解決にフォーカスしたから成功したのです。
2. 価格以外の差別化ポイントを明確にする
顧客は必ず他社と比較します。その時に、あなたの会社を選ぶ理由を明確に説明できますか?
価格だけで勝負していたら、永遠に値上げはできません。価格以外の部分で、なぜあなたの会社でなければダメなのかを明確にしましょう。
3. 自社の独自価値を言語化する
あなたの会社にしかできないことは何ですか?
「品質が良い」「対応が早い」「安い」こんな曖昧なことじゃダメなのです。
具体的に、数字で、他社と比較できる形で自社の価値を整理してください。
例えば:
「業界平均の2倍の耐久性」
「24時間以内の対応保証」
「過去5年間クレーム発生率0.1%以下」
こういう具体的な数字で、価値を表現するのです。
◾️ 値上げを成功させる5つのステップ
ここからは実践編です。「よし、値上げしたい。でも、どうやって?」という方に向けて、私がいつもコンサルで話している「値上げに持っていく5つのステップ」をご紹介します。
ステップ① 自社と顧客を正しく把握する
まずは、自分の足元を固めるために、自社と顧客を正しく把握しましょう。
原価構造の見直し
材料費、人件費、設備費、外注費...全部です。「なんとなく上がった気がする」ではダメです。具体的に何がどれだけ上がったのか、数字で把握してください。
競合他社の価格調査
競合調査を、正確にやっていない会社が多くあります。同業他社のホームページ、営業マンからの情報、既存顧客からのヒアリング...あらゆる手段で競合の価格を調べてください。
ただし、表面的な価格だけでは不十分です。サービス内容、納期、品質レベルまで含めて比較することが重要です。
自社の独自価値の棚卸し
これが一番大事です。あなたの会社が他社と違うのはどこですか?技術力?対応力?実績?立地?人材?
顧客があなたの会社を選んでいる理由を、もう一度整理してください。
ステップ② 顧客の課題と価値を数値化する
次に、顧客のことを徹底的に理解しましょう。
顧客の課題と困りごとの深掘り
顧客が本当に困っていることは何でしょうか?表面的な要望ではなく、その奥にある真の課題を見つけてください。
例えば、「安くしてほしい」という要望の裏には「予算が厳しい」「上司を説得する材料が欲しい」「他部署にコスト削減をアピールしたい」といった事情があるかもしれません。
効果の数値化
効果を数値化することは、大きな成功要因の1つになります。あなたの商品・サービスによって、顧客はどんな利益を得ているのか?
コスト削減?売上向上?作業効率化?それを具体的な数字で表現するのです。
- 「品質が良い」→「不良品率を30%削減」
- 「対応が早い」→「従来より2日短縮」
この数値化が値上げ交渉の最強の武器になります。
顧客にとっての真の価値の算出
最後に、顧客にとってあなたの商品・サービスがどれだけの価値があるのかを計算してください。
例えば、月100万円の人件費削減効果があるなら、年間1200万円の価値。それに対して月10万円の商品なら、年間120万円。投資対効果は10倍です。この計算ができれば、値上げ交渉は格段に楽になります。
ステップ③ 値上げの理由を言語化する
「なぜ値上げする必要があるのか?」をチーム内で言語化します。
「原材料費が20%上がったからです」と言いたくなる気持ち、わかります。でも、それって顧客には関係ないのですね。ただの押し付けに聞こえてしまう。
ここで大事なのは、「なぜ"顧客にとっても意味がある"値上げなのか?」を、まず自分たちで言語化しておくことです。
- 「今まで以上に品質を保つには、必要な投資なのです」
- 「納期を守るために物流体制を強化しました」
こういった、「価値維持」や「体験向上」とつなげて説明できる準備が要ります。
ステップ④ 競合との差別化を明確にする
競合との違いを明確にしておくことが必要です。「他社も値上げしてるいるからウチも値上げします」では通用しません。
逆に、「A社より納期が安定している」「B社にはないカスタマーサポートがある」など、比較されたときに「ウチを選ぶ理由」を、具体的に示せるようにしておくことが大事です。
実は経営者も営業も、差別化ポイントを曖昧にしてるケースが多いのです。差別化の棚卸しが、値上げの説得力を生む土台になります。
ステップ⑤ 伝えるタイミングと方法を工夫する
最後に大事なのが、「どう伝えるか」です。
いきなり「来月から値上げです」とFAXやメールで送るのはNGです。できれば、事前に「対話」の場をつくることが理想です。
訪問して説明するのが難しいなら、ZoomやTeamsでもいい。その際、「ご理解ください」ではなくて、「Aさんの業務にこういう価値を提供し続けたいから」という、相手目線の説明ができているか?をチェックするといいでしょう。
ここで誠実に、熱量をもって伝えることで、むしろ信頼が深まるケースが多いのです。
段階的値上げという選択肢
一気にフルで値上げしようとするから、抵抗が出るのです。
たとえば:
「今回は対象商品をBのラインナップに限定します」
「既存顧客には半年間据え置きます」
「新規のみ価格改定します」
というような「ソフトランディング型の値上げ」も、戦略としてありです。
いきなり全部を変えるより、「まずはこの範囲で、反応を見ながら拡大する」というやり方が、現場では非常にうまくいきます。
値上げ交渉で使える具体的なトーク例
実際の交渉で使える具体的なトーク例をご紹介します。
導入部分
「Cさん、いつもお世話になっております。今日は大切なお話があってお時間をいただきました。これまで弊社をご愛顧いただき、本当にありがとうございます。」
価値の再確認
「改めて確認させていただきたいのですが、弊社のX サービスによって、御社では月間約100万円のコスト削減効果を実感していただいていますよね。」
値上げの理由説明
「実は、この価値を今後も安定してご提供し続けるために、サービス内容の向上と体制強化を行う必要が出てまいりました。具体的には...」
投資対効果の説明
「今回の価格改定により、御社にとってのメリットとして、さらに業務効率のアップによる残業時間の低下という効果が期待できます。月額20万円の投資で、年間400万円の効果ですので、投資対効果は年間で20倍になります。」
クロージング
「貴社の事業がさらに発展するためのパートナーとして、今後ともお役に立ちたいと考えております。ご検討いただけますでしょうか。」
値上げ後のフォローアップも重要
値上げが決まったら、それで終わりではありません。
値上げ後のフォローアップには以下のような方法があります。
- 定期的な効果測定と報告
- 新しい付加価値の提供
- 顧客満足度の継続的な確認
値上げは「関係性を深める機会」として捉えることが大切です。
◾️ 勇気を持って一歩踏み出そう
最後に一つ、覚えておいてください。
値上げを恐れている限り、あなたのビジネスは成長しません。
むしろ、適切な値上げは、顧客との関係をより深いものにします。なぜなら、より高い価値を提供することになるからです。多くの経営者が値上げを「顧客に嫌われること」だと思っています。でも実際は、「顧客にもっと価値を提供するチャンス」なのです。
あなたの商品・サービスには、必ずそれに見合った価値があるはずです。その価値を正しく伝える準備を整えて、勇気を持って一歩踏み出してください。
値上げは技術です。正しい手順で、正しい伝え方をすれば、必ず成功します。
あなたのビジネスの成長を心から応援しています。
このブログでは、マーケティングや営業に役立つ記事を掲載しています。 他の記事も読み、ビジネスの参考にしてください。
執筆者
家電メーカー、石油会社、大型車両メーカー、高機能フィルムメーカー、建築部品メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、顧客視点の顧客文化にするマーケティング社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で24冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
マーケティングを自社に取り入れたい、営業チームを活性化したい、新しいビジネスを軌道に乗せたいなど、この記事やマーケティングについて知りたいこと、聞いてみたいことは、マーケティングアイズ株式会社のフォームからお気軽にどうぞ(以下をクリックください)