問題と課題とは?【図解と事例で解説!】違いを理解して成果を出すリーダーの思考法|正しい問題定義で解決策を導こう

◾️ 【リーダー必見!】問題と課題の違いとは?成果を出すための思考の基本
「売上が下がってきていまして...」
「新規顧客が取れなくて...」
「人材が定着しなくて...」
私のところに相談にくる方に「問題は何ですか?」と聞くと、このような答えが返ってきます。
しかし、これは本当の「問題」でしょうか?
売上の低下、新規顧客が取れないこと、人材の流出などは、すべて"現在の状況"に過ぎません。真の問題は、もっと深いところにあるのです。
このように、 "現在の状況"を「問題」だと思い込んでいるビジネスパーソンも少なくないのです。この思い込みのまま「課題」を設定し、解決策を実行してしまう。結果として、時間とお金をかけたのに思うような成果が出ない、ということが頻繁に起こります。
ビジネスの現場でも、「この問題をどう解決しましょうか」「課題設定が間違っているのでは」といった会話をよく耳にしますが、多くの方が「問題」と「課題」を混同したまま議論を進めているケースを、数多く見てきました。
この混同は、単なる言葉の問題ではありません。思考の整理ができていない状態で進めると、的外れな解決策を実行してしまい、時間とリソースを無駄にしてしまいます。
この記事では、この「問題」と「課題」の違いを明確にし、正しい思考プロセスで成果につなげる方法をお伝えします。
◾️ 問題と課題の違いとは?〜定義
まず、基本的な定義から整理しましょう。
問題とは
現状と理想のギャップのことです。「今こうなっているが、本当はこうあるべき」という状態の差を指します。
課題とは
その問題を解決するための方針や取り組むべき事項のことです。
問題が「何が起きているか」を示すのに対し、課題は「何をすべきか」を示します。
例えば、営業チームの売上が目標に届いていない場合で言うと:
- 問題:月間売上が目標の80%にとどまっている(現状と理想のギャップ)
- 課題:顧客へのアプローチ方法を見直し、提案力を強化する(解決のための方針)
この違いを理解することが、効果的な問題解決の第一歩となります。
◾️ 真の本題を見つける方法:現状と理想のギャップを正しく捉える
問題を正しく定義するためには、以下のようなステップで考えていきます。
1. 現状と理想の状態を明確に分けて考える
2. なぜ、現状ではダメなのか?という理由を数回深掘りする
よくある間違いは、現状そのものを問題だと捉えてしまうことです。
例えば、「残業時間が長い」という状況があったとします。これを「残業時間が長いのが問題だ」と捉えるだけでは不十分です。なぜなら、残業時間が長いこと自体は現状の事実であり、「何と比較したときに、何が問題なのか」が明確ではないからです。
現状から、本来の問題を導き出すステップは以下のようになります:
現状:平均残業時間が月50時間
理想:残業時間を月20時間以内にしたい
問題:残業時間が理想より30時間多い状態
このように、現状と理想を分けて考えることで、問題を具体的にすることで、解決の方向性を見える化していきます。
問題定義の具体例:「なぜ」を繰り返して真の問題を発見する
ある小売店での事例を通して、このプロセスを詳しく見てみましょう。
以前よりお客様の数が減ってくると、「お客様の来店数が少ない」「お客様の数が減ってきた」と、問題として認識してしまいます。しかしこれは、単なる現状であって、真の問題ではありません。
正しい問題定義のプロセス:
ステップ1:現状と理想を明確に分ける
現状:平日の来店数が1日平均30人
理想:平日の来店数を1日平均50人にしたい
問題:平日の来店数が理想より20人少ない
ステップ2:「なぜ」を繰り返して深掘りする
なぜ1:なぜ平日の来店数が少ないのか?
▶️ 平日の午前中と夕方以降の来店が特に少ないから
なぜ2:なぜ平日の午前中と夕方以降の来店が少ないのか?
▶️ 午前中は近隣の主婦層が来店せず、夕方以降は会社員の帰宅客が来店しない
なぜ3:なぜ主婦層が午前中に来店しないのか?
▶️ 子供向けの商品やサービスが不足している。また、ベビーカーでの入店が困難
なぜ4:なぜ会社員が夕方以降に来店しないのか?
▶️ 最寄り駅から店舗への導線上に競合店があり、そちらに流れている
なぜ5:なぜ導線上の競合に負けているのか?
▶️ 営業時間が競合より短く、会社員の帰宅時間に合っていない
この、なぜ4やなぜ5のあたりが、解決すべき"真の問題"であるといえます。
真の問題の発見:
単に「来店数が少ない」のではなく、
- 子育て世代への対応不足により午前中の機会損失が発生
- 営業時間設定により夕方以降の機会損失が発生
という2つの具体的な問題が明らかになりました。
この深掘りプロセスにより、「集客キャンペーンを打つ」といった表面的な解決策ではなく、「子育て支援環境の整備」と「営業時間の見直し」という、より本質的な課題設定が可能になります。
「売り上げが減ってきた」ことが問題だ、と認識してしまうと、「広告を増やすべきだ」「値下げする方がいい」という間違った解決策にたどり着いてしまいます。そこには「どの程度改善すべきか」「いつまでに改善すべか」が不明確です。
現状を深掘りして、真の問題にたどり着くことができると、正しい解決策に辿り着けるのです。
真の問題に基づく課題形成とアクションプラン:
定義できた問題を解決するための、課題、具体的には方針とアクションプランをまとめていきます。
課題1:子育て世代の午前中利用を促進し、平日午前の来店数を15人増加させる
- 実行内容:ベビーカー対応の入口改修、キッズスペース設置、離乳食・おむつ販売開始
- 期限:2ヶ月以内に環境整備完了
- 目標:平日午前中の来店数を現在の8人から23人へ増加
課題2:会社員の夕方利用を促進し、平日夕方の来店数を10人増加させる
- 実行内容:営業時間を19時から21時まで延長、夕方限定商品の開発
- 期限:1ヶ月以内に営業時間延長開始
- 目標:平日夕方(17-21時)の来店数を現在の5人から15人へ増加
このように、真の問題を発見することで、より効果的で具体的な課題とアクションプランを立てることができるのです。
◾️ 問題と課題を分けて考えることが重要
問題と課題を混同したまま進めるとどうなるのでしょうか。実際の事例を通して見てみましょう。
混同による失敗事例〜IT企業のケース
状況:
システムの稼働率が低下している
間違ったアプローチ:
「システムの稼働率向上」を問題として設定
「サーバーを増強する」を解決策として実行
結果:
サーバーを増強したものの、稼働率は改善されませんでした。
間違っていたポイントは?:
実は、稼働率が低下した原因は、特定の処理で発生するメモリのリークにありました。サーバー増強では根本的な解決にならなかったのです。
正しいアプローチ:
- 現状:システム稼働率が85%
- 理想:システム稼働率を99%以上に維持したい
- 問題:システム稼働率が理想より14%低い
- 原因分析:メモリリークによる定期的なシステム停止が発生
- 課題:メモリリーク箇所の特定と修正、監視体制の強化
この事例が示すように、問題と課題を混同すると、的外れな解決策を実行してしまい、根本的な改善につながらないのです。
別の混同事例:人事評価制度
人事部門でもよく見られる混同例があります。
状況:
社員のモチベーション低下
間違ったアプローチ:
「モチベーション向上」を課題として設定
「評価制度を変更する」を実行
問題:
何を解決しようとしているのかが不明確なまま制度変更を行ったため、社員の混乱を招き、さらにモチベーションが低下してしまいました。
正しいアプローチ:
- 現状把握:社員アンケートで満足度を数値化
- 現状:仕事への満足度が10点満点中5.2点
- 理想:満足度を7.5点以上にしたい
- 問題:満足度が理想より2.3点低い
- 原因分析:評価基準の不明確さ、成長機会の不足など
- 課題:評価基準の明文化、キャリア開発制度の整備
◾️ 状況を正しく把握し、深掘りすることで正しい問題を発見する方法
問題を正しく発見するためには、表面的な現象に惑わされず、本質的な原因まで深掘りすることが重要です。
深掘りの基本ステップ
ステップ1:現状の数値化
まず、現状を可能な限り数値で把握します。感覚的な表現ではなく、具体的なデータで現状を捉えることが重要です。
ステップ2:理想状態の明確化
次に、理想状態も具体的に設定します。「もっと良く」ではなく、「いつまでに、どの程度」まで明確にします。
ステップ3:ギャップの特定
現状と理想のギャップを定量的に把握します。
ステップ4:要因の分析
なぜそのギャップが生じているのか、複数の観点から要因を分析します。
ステップ5:根本原因の特定
表面的な要因ではなく、なぜその状況に陥ってしまったのかという根本的な原因を特定します。上記で説明したように、なぜを5回ほど繰り返していきます。
深掘り事例:カフェの売上不振
あるカフェオーナーの事例で、この深掘りプロセスを見てみましょう。
表面的な認識:
「最近、お客さんが来なくなった」
ステップ1:現状の数値化
- 3ヶ月前の1日平均客数:120人
- 現在の1日平均客数:80人
- 客単価:変化なし(800円)
- 営業時間:変化なし
ステップ2:理想状態の明確化
- 目標:1日平均客数を元の120人に戻したい
- 期限:2ヶ月以内
ステップ3:ギャップの特定
- 問題:1日の客数が理想より40人少ない状態が3ヶ月続いている
ステップ4:要因分析
- 時間帯別、曜日別、客層別に分析した結果:
- 平日の昼間(11-14時)の客数減少が顕著
- 近隣にオフィスがある会社員客の減少
- 週末や夕方以降は大きな変化なし
ステップ5:根本原因の特定
さらに調査すると、近隣の大手企業がリモートワークを導入し、オフィス出社率が大幅に低下していることが判明。
真の問題:
リモートワーク普及により、平日昼間の潜在顧客が40人分減少している
この深掘りにより、単純に「集客施策を強化する」のではなく、リモートワーカーや在宅勤務者をターゲットにした新しいサービス展開が必要だという課題が見えてきました。
◾️ 深掘りした問題をベースに課題を形成する5つのステップ
正しく問題を特定できたら、次はその問題を解決するための課題を設定します。
ステップ1:問題の再確認
深掘りして見つけた、真の問題を改めて確認する。
ステップ2:解決の方向性を検討
問題を解決するためには、どのようなアプローチが考えられるかをブレインストーミングする。チームでやれると効果が増します。
ステップ3:実現可能性の評価
各アプローチについて、リソース、時間、技術的な実現可能性を評価する。
ステップ4:優先順位の設定
効果の大きさ、実現の容易さ、リスクの低さなどを総合的に判断して優先順位を決める。
ステップ5:具体的な課題として設定
選択したアプローチを、具体的で実行可能な課題として言語化する。
◾️ 問題を定義し、正しい課題を形成するためには
長年ビジネスの現場で様々な課題解決に携わってきた経験から、最後に重要なポイントをお伝えします。
1. 「なぜ」を5回繰り返す習慣を
表面的な現象に飛びつかず、「なぜそうなっているのか」を最低5回は繰り返し問いかけてください。多くの場合、本当の問題は3-5層深いところに潜んでいます。
2. 数値化できるものは必ず数値化する
「最近調子が悪い」「なんとなく上手くいかない」といった感覚論では、正確な問題把握はできません。可能な限り現状を数値で把握し、理想状態も数値で設定することで、問題が明確になります。
3. 問題と課題の整理を他者と共有する
一人で考えていると、思考の偏りや見落としが生じがちです。問題の定義と課題の設定を他者と共有し、フィードバックをもらうことで、より精度の高い問題解決が可能になります。
4. 小さく始めて、素早く検証する
完璧な解決策を求めすぎると、実行が遅れがちです。まずは小さなスケールで課題に取り組み、効果を検証しながら改善していく姿勢が重要です。
5. 定期的な振り返りを必ず行う
設定した課題が本当に問題解決につながっているか、定期的に振り返りを行いましょう。問題の定義が間違っていれば、課題設定も修正する勇気を持つことが大切です。
問題と課題の違いを理解し、正しいプロセスで思考を整理することは、ビジネスで成果を出すための基本中の基本です。
問題は「現状と理想のギャップ」、課題は「そのギャップを埋めるための方針」。この基本を押さえ、深掘りによって真の問題を発見し、それに基づいて実効性の高い課題を設定する。このサイクルを身につけることで、あなたの問題解決能力は格段に向上するはずです。
以前、大手家電メーカーの販売部門の事業計画作成を支援させていただいたことがありました。Eコマースの台頭や競争の激化がある中、問題定義と課題形成という、いわば当たり前のことからやり直し、成果につながったことがあります。
現状を打破したい時や、売り上げ定価などの売れない問題が発生した時には、新しい施策を打つ前に、まずは問題を定義してみましょう。
明日からの仕事で、ぜひこの思考プロセスを実践してみてください。最初は時間がかかるかもしれませんが、習慣化することで、より効率的で成果の出る仕事ができるようになるのです。
この記事の内容については、以下の動画でも説明していますので、参考にしてください。
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執筆者
家電メーカー、石油会社、大型車両メーカー、高機能フィルムメーカー、建築部品メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、顧客視点の顧客文化にするマーケティング社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で24冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
マーケティングや営業について相談したい、営業組織を活性化したい、新しいビジネスを軌道に乗せたい、など、
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