法人営業のブランド構築戦略:顧客を自社に導く強いブランドの作り方

◾️ 【経営者必見‼️】なぜ法人営業でもブランディングが必要なのか
「また今回も有名企業に負けてしまった...」
「提案内容は負けていないのに、最終的には値段勝負になってしまう」
営業の現場ではこういった悩みの根本的な原因は「ブランド」ができていないことにあります。
多くの経営者や営業担当者は、こう考えがちです。
「うちの会社は法人営業だからブランディングって言っても...」
「ロゴも変えたし、イメージの良いホームページにしたから大丈夫」
しかし、ブランドとはルイ・ヴィトンやシャネルのような高級ブランドや、コカ・コーラやアップルのような消費者向けサービスだけのものではありません。ブランドというのは、デザインとかロゴの話ではないのです。
営業の場面で「この会社なら安心だな」「ここに任せれば間違いない」という信頼を感じてもらえること、そして他の会社ではなくあなたの会社を"選ぶ理由"が明確にあること。これがブランドです。
たとえば、製造業なら「この会社は精度が高くて納期もきっちり守ってくれる」、IT業界なら「この会社の提案は現場をよくわかっていて的確だ」このような印象を持たれていることがブランドなのです。
ブランドが構築できれば、営業担当がゼロから説明しなくても「信頼されている会社」として話を聞いてもらえます。これだけで商談の入り口がまったく違うモノになります。
このように、BtoB(法人間取引)において、強いブランドは「成果につながる営業の武器」になるのです。
BtoBビジネスでのブランディングの事例については以下の記事でも説明しているので、参考にしてください。
▶️ 法人営業のブランディングとは?:顧客との絆を築く5つの方法
しかし、ブランドを構築するということは「見た目を格好良くする」ことだけではありません。この記事では、どうやって「売れるブランド」を作り上げるのか、その具体的な方法論について詳しく解説していきます。
ブランドの作り方を、船を導く「灯台」に例えて考えてみましょう。
あなたが営業をしている市場は、まるで真夜中の海のようなものです。情報は多すぎて、選択肢もありすぎて、お客様自身も「どこに向かえばいいのか」迷ってしまっています。その中で、お客様という船が安全に港へたどり着くためには、目印が必要ですよね。それが、灯台、つまり、あなたの会社のブランドです。
この灯台の光が強く、特徴的で、遠くまで届けば届くほど、迷っているお客様の目に止まり、「あ、あっちに行けばいいんだな」と自然に選んでもらえるんです。
灯台の光が遠くまで届くように、強いブランドができると、現在は遠く離れているお客様からも認識され、彼らを引き寄せる力となるのです。
◾️ 法人ビジネスでブランドを構築する目的と3つのメリット
ブランドを作るということは、単にイメージを良くしたり、知名度を上げることではありません。お客様にファンになってもらい、長期間にわたって愛され続けることを目指すのです。
これは特に法人営業において重要で、一度の取引で終わるのではなく、継続的な関係を築くことで安定した収益基盤を作ることができます。
法人ビジネスでのブランド構築ができると、以下のようなメリットを得られます。
- 価格競争からの脱却
強いブランドを持つ企業は、価格以外の価値で勝負できるようになります。お客様が「この会社でなければならない」と感じる理由を提供できれば、適正な価格で取引することが可能になります。 - 営業効率の向上
ブランドが確立されていると、営業活動において「会社の説明」に費やす時間が大幅に短縮されます。お客様が既にある程度の信頼感を持って商談に臨んでくれるため、より本質的な提案に時間を割くことができます。 - 紹介による新規開拓の増加
満足したお客様が他社に紹介してくれる機会が増えます。「あの会社なら間違いない」という評判が広がることで、営業コストを削減しながら新規顧客を獲得できます。
◾️ ブランド構築の4つのステップ
強いブランドを構築するには、以下の4つのステップを順序立てて実行する必要があります:
- 認知度(存在に気づいてもらう)
- 差別化(他との違いを明確にする)
- 親和性(信頼と感情的なつながりを作る)
- 忠誠心(繰り返し選ばれる関係を築く)
ひとつずつ見ていきましょう。
ステップ1:認知度の向上:知られていなければ、選ばれない
どんなに良い製品やサービスを持っていても、知られていなければ存在しないのと同じ。まずは「その会社、聞いたことあるな」と思ってもらう必要があります。
法人営業では、以下のような方法が効果的です。
- 業界展示会への出展やメディア掲載
- SEOやリスティング広告による検索対策
- LinkedInやnoteなどでの情報発信
- メルマガ、ホワイトペーパー、セミナーなどのリード獲得施策
「この業界ならあの会社がいるよね」と思ってもらえれば、提案のチャンスも増え、競合との差別化もしやすくなります。
ステップ2:差別化の確立:価格で選ばれないために
認知されても、他社と同じような印象しか持たれていなければ、最後は価格でしか勝負できません。
大切なのは、「うちが選ばれる理由」をはっきりと言語化することです。以下は具体的な事例です。
- 業界特化で提案力が高い
- アフターフォローが徹底している
- 柔軟なカスタマイズに対応できる
このように、自社ならではの強みを明確に打ち出します。そしてその強みが、お客様の「困っていること」とちゃんと結びついていれば、営業の際にも響くメッセージになります。差別化は、営業資料やプレゼン資料、導入事例の見せ方などにも表れてきます。
競合他社との違いを分析して、自社だけが提供できる独自の価値提案(USP)を明確にします。技術的優位性や専門性、顧客事例やケーススタディの豊富さ、特許や認証の取得などで、差別化要素を強化します。
以下が、法人営業における差別化の事例です。
- 技術力や専門性の可視化
- 導入実績と成功事例の体系化
- アフターサービスやサポート体制の充実
- 業界特化型のソリューション開発
- 柔軟なカスタマイズ対応力
ステップ3:親和性の向上:信頼されるブランドになる
差別化が「機能的な理由」だとすれば、親和性は「感情的な理由」です。
「なんとなく信頼できる」
「あの会社の担当者、感じが良かった」
「ちゃんと話を聞いてくれた」
この"なんとなく"がとても大事で、法人営業では意思決定に大きく影響を与えます。
このステージでは、船乗りたちが特定の灯台の光を見ると「ああ、もう安心だ」と感じるような信頼感を作ることで、あなたの顧客企業から見た時の重要なランドマークとなることを目指します。アップル製品のロゴを見ただけで「これが欲しかった製品だ」とすぐに分かるような状態を目指すのです。
具体的には、以下のようなアプローチで親和性を高めていきます。
- ブランドストーリー(創業の思いや理念)を伝える
- 顧客とのエピソードや事例紹介
- SNSでの誠実な対応やコメント返し
- 代表者や社員の顔が見える発信
「ここはただの業者じゃなくて、私たちのパートナーになってくれそう」
そう思ってもらえる状態が理想です。
以下に具体的な施策を挙げておきます。
- 定期的な情報提供(ニュースレター、技術情報の配信)
- 顧客限定のセミナーや勉強会の開催
- 業界トレンドに関する洞察の共有
- 個別のコンサルティングサービスの提供
- 長期的なパートナーシップの構築
ステップ4:忠誠心(ロイヤルティ)の醸成:営業が"守り"に強くなる
最後のステップが「忠誠心」、つまりリピートされる仕組みです。
法人営業では、最初の契約を取るよりも「継続契約」や「アップセル」「紹介」の方が、コストパフォーマンスが高くなります。
一度取引が始まったお客様に、どうすれば継続してもらえるのか。そのために大切なのは:
- 導入後のサポートがしっかりしていること
- フィードバックを定期的にもらって改善していること
- 特典や専用情報など、既存顧客向けの特別扱いがあること
灯台の光を何度も頼るように、「またあの会社に頼もう」と思ってもらえる関係を作る。これができると、価格競争とは無縁の世界に入れます。
以下に、具体的な取り組みの事例を挙げておきます。
- 既存顧客への継続的な価値提供
- アップグレードや追加サービスの提案
- 顧客満足度の定期的な測定と改善
- VIP顧客向けの特別サービス
- 長期契約やパートナーシップ契約の推進
◾️ 各ステップにおける具体的な戦術とメディア選択
- 認知度向上のための戦術
認知度が不足している場合は、まず存在を知ってもらうことに集中します:
デジタルマーケティング:
- LinkedIn、Facebook、Twitterなどのビジネス向けSNSでの広告出稿
- Google AdWordsやYahoo!プロモーション広告での検索エンジン対策
- 業界特化型のWebメディアへの広告掲載
- SEO対策による自然検索での上位表示
従来型メディア:
- 業界専門誌への広告掲載
- 展示会やトレードショーでのブース出展
- セミナーやウェビナーの主催
- プレスリリースの配信
- 差別化のための戦術
認知度がある程度確保できたら、次は「なぜ当社を選ぶべきか」を明確に伝えます:
コンテンツマーケティング:
- 技術ブログや専門記事の執筆
- ホワイトペーパーや調査レポートの発行
- 動画コンテンツによる技術解説
- ポッドキャストでの業界動向解説
PR戦略:
- メディアへのブランドストーリーの提供
- 業界専門誌でのインタビュー記事
- 受賞歴や認証の積極的なアピール
- 成功事例の詳細な公開
- 親和性向上のための戦術
ソーシャルメディアエンゲージメント:
- LinkedIn、Facebookでの積極的な対話
- 業界グループでの有益な情報共有
- ユーザー生成コンテンツの促進
- オンラインコミュニティの構築
パーソナライズドマーケティング:
- セグメント別のメール配信
- 個別カスタマイズされた提案資料
- 顧客の業界や規模に応じた事例紹介
- One-to-oneのコミュニケーション強化
体験型マーケティング:
- 工場見学や技術デモンストレーション
- ハンズオンワークショップの開催
- 無料トライアルや概念実証(PoC)の提供
- カスタマーサクセスチームによるフォローアップ
- ロイヤルティ向上のための戦術
カスタマーリテンション:
- 既存顧客向けの特別サービス
- アップグレードパスの明確化
- 長期契約への優遇措置
- 顧客限定イベントの開催
アドボカシーマーケティング:
- 顧客による推薦プログラム
- ケーススタディへの協力依頼
- カスタマーアドバイザリーボードの設置
- 満足顧客による講演機会の提供
◾️ 法人営業特有のブランド構築の課題と解決策
一方で、法人営業(BtoB)でのブランド構築は、消費者向けビジネス(BtoC)とは違う課題があります。BtoCでは、個人が感情的に購買決定しますが、法人の購買は論理的で複雑なプロセスを経るため、ブランディング戦略も根本的に異なるアプローチが必要です。
ここでは、多くの法人営業担当者が直面する3つの主要な課題と、それぞれの具体的な解決策について詳しく解説します。
課題1:購買プロセスの複雑さ
法人営業では、意思決定者が複数存在し、購買プロセスが長期化する傾向があります。
解決策:
- ステークホルダーマッピングの実施
- 各関係者に向けたメッセージの最適化
- 段階的な情報提供とナーチャリング
- 決裁者向けの ROI 計算ツールの提供
課題2:技術的な複雑さの伝達
BtoB商材は技術的に複雑で、その価値を分かりやすく伝えることが困難です。
解決策:
- 技術的特徴をビジネス価値に翻訳
- インフォグラフィックスやビジュアルの活用
- 段階的な理解促進コンテンツの作成
- 業界別の導入効果の定量化
課題3:長期的な関係構築の必要性
一度の取引で終わらず、継続的な関係を構築する必要があります。
解決策:
- カスタマージャーニーマップの作成
- 各段階での適切なタッチポイント設計
- 継続的な価値提供の仕組み化
- 関係維持のための定期的な接点創出
成功測定とKPI設定
ブランディング活動の効果を測定するために、以下のKPIを設定することが重要です:
認知度段階のKPI
- ブランド認知率
- Webサイトトラフィック
- 検索ボリューム
- SNSフォロワー数
- メディア露出回数
差別化段階のKPI
- ブランド想起率
- 競合比較での選好度
- 問い合わせ品質
- 提案機会の獲得数
- コンテンツエンゲージメント率
親和性段階のKPI
- 顧客満足度スコア
- エンゲージメント率
- 口コミや推薦の数
- ソーシャルシェア数
- イベント参加率
ロイヤルティ段階のKPI
- 顧客継続率
- アップセル・クロスセル率
- 顧客生涯価値(LTV)
- 推薦による新規獲得数
- 契約更新率
◾️ 継続的なブランド強化の重要性
法人営業におけるブランディングは、一朝一夕で完成するものではありません。灯台が常に安定した光を放ち続け、船乗りたちの信頼を維持するように、ブランドも継続的な投資と改善が必要です。
4つのステップ(認知度・差別化・親和性・忠誠心)のどれか一つでも欠けていれば、ブランドの力は十分に発揮されません。計画的に、そして一貫性を持って取り組むことで、価格競争に巻き込まれることなく、お客様から選ばれ続ける強いブランドを構築できるのです。
今日からあなたも、顧客を導く「灯台」のような強いブランドを作り始めてみませんか。最初は小さな光でも、継続的な努力によって、やがて遠くの顧客まで引き寄せる強い光となるはずです。
ブランドイメージができたらそれで終わりではなく、むしろそこからが本当のスタートです。お客様との信頼関係を深め、長期的なパートナーシップを築き上げることで、安定した収益基盤と持続可能な成長を実現していきましょう。
ブランドマネジメントについて、以下お動画でも話していますので参考にしてください。
このブログでは、マーケティングや営業に役立つ記事を掲載しています。
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執筆者
家電メーカー、石油会社、大型車両メーカー、高機能フィルムメーカー、建築部品メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、顧客視点の顧客文化にするマーケティング社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で24冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
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