法人営業のマーケティングとは?顧客獲得のためのBtoBマーケティングの仕組み・スキームの作り方

「新規顧客が獲得できない」
マーケティングや営業の活動について回る悩みです。
この記事では、法人営業における新規顧客獲得のマーケティング的なスキームの構築方法について、弊社が実際に現場で経験してきたことを交えながら解説をしていきます。
多くの営業マンが目の前のお客様を追いかけることに必死になっているのですが、それだけでは不十分です。長期的な視点で全体を俯瞰して、戦略的にスキームを設計することが本当に重要なのです。
マーケティングの視点を営業に取り入れることで、単発の売上ではなく、継続的に新規顧客を獲得できる仕組みを作ることができます。この記事はそのための具体的なステップと、私が実際に見てきた成功事例を交えながら、実践的な方法をお伝えしていきます。
BtoB・法人営業にマーケティングが必要な理由は、以下の記事で詳しく解説しています。参考にしてください。
▶️ BtoBビジネス・法人営業にマーケティングが必要な理由と導入ステップ
◾️ 法人営業におけるスキーム設計の基本思考
なぜスキーム設計が必要なのか
営業は、どうしても「今月の数字」「今四半期の目標」に追われがちになります。しかし、それだけだと常に火消しに追われる状況になってしまいます。
私の支援先でも、優秀な営業パーソンほど"個の力"で何とかしようとするんですが、それだと組織として再現性のある成果を出すことができないのです。
◾️ 法人営業での顧客獲得スキーム構築7つのステップ
法人営業における新規顧客獲得は、実は「システム」を組み立てることから始めるといいのです。個人のスキルに依存するではなく、誰がやっても一定の成果が出せる仕組みを作ることが大切です。
1. 顧客獲得プロセス全体の俯瞰
まず、顧客獲得のプロセス全体を俯瞰してみましょう。
認知→興味→検討→購買→継続
顧客は、ニーズを認知し、深く知りたくなり、選択肢の中からどこにするかを検討し、契約・購買へと進みます。この顧客の行動の一連の流れの中の、どこで何をすべきかを明確にすることが出発点です。
腕の立つベテラン営業は「検討」や「購買」にばかり注力する傾向があります。最後にクローズすることは重要ですが、チーム全体で結果を出すには、「認知」と「興味」の段階での仕組み作りが必要なのです。
法人向けビジネス、BtoBの場合は、購買に至るまでの検討期間が長いからです。特に単価の高い商材や、企業の根幹に関わるようなサービスの場合、半年から1年以上かかることも珍しくありません。
だからこそ、早い段階から見込み客との関係を築いて、購買意欲が高まったときに真っ先に声をかけてもらえる状況を作る必要があるのです。
戦略的アプローチの重要性
購買までの、営業の準備段階は釣りと似ています。
魚が回遊してくるのを待って、一匹ずつ釣り上げるのか。それとも、魚が集まってくる仕組みを作って、効率的に大量に獲るのか。
前者が従来の営業スタイルで、後者が戦略的なスキーム設計です。
戦略的アプローチでは、以下の要素を組み合わせて考えます。
- ターゲット設定:どんな企業の、どんな役職の人を狙うのか
- 価値提案:その人たちにとって、なぜ自社の商品・サービスが必要なのか
- チャネル戦略:どのような方法でアプローチするのか
- タイミング:いつ、どのタイミングでアプローチするのか
これらを体系的に設計することで、再現性のある営業スキームを構築できます。
2. 効果的なリード獲得方法の最新トレンド
デジタルマーケティングの活用
今の時代、BtoBでもデジタルマーケティングは必須です。支援先の企業でも、デジタルを活用してリード獲得に成功している事例が多くあります。中でも、コンテンツマーケティングは特に効果的ですね。業界の課題解決に関するホワイトペーパーやウェビナーを提供することで、質の高いリードを獲得できます。
例えば、ある製造業向けのシステム会社では、「製造現場の効率化」をテーマにしたウェビナーシリーズを開催して、月間100件以上のリードを獲得しています。
SNSマーケティングも無視できません。特にLinkedInは BtoBには非常に効果的です。決裁者や影響力のある人たちが多く利用しているので、適切なコンテンツを発信することで、直接的なリーチが可能になります。
SEO・SEM戦略、検索エンジンマーケティングも重要な要素です。
SEO(検索エンジン最適化)では、ターゲット企業が検索しそうなキーワードで上位表示されるように、コンテンツを最適化します。
例えば、人事システムを販売している会社なら、「人事評価システム 比較」「勤怠管理システム 導入」といったキーワードでコンテンツを作成し、検索流入を増やします。
SEO対策については、以下の記事で詳しく説明を強いるので参考にしてください。
▶️ SEO対策とは?検索エンジンの最適化の事例と、SEM、検索エンジン広告との比較
SEM(検索エンジンマーケティング)では、Google AdsやYahoo!広告を活用して、即効性のあるリード獲得を目指します。
ここで重要なのは、単純にクリック数を増やすことじゃなくて、質の高いリードを獲得することです。広告の設定やランディングページの最適化によって、コンバージョン率を高めることができます。
マーケティングオートメーション(=MA)ツールの活用も欠かせません。
見込み客の行動を追跡して、適切なタイミングで適切なコンテンツを提供することで、購買意欲を高めることができます。
マーケティングオートメーションについては、以下の記事で詳しく説明を強いるので参考にしてください。
▶️ マーケティングオートメーションとは?戦略構築、ツールの選び方、業者選別のポイントで法人営業を効率化させるには?
例えば、資料をダウンロードした見込み客に対して、一週間後にウェビナーの案内を送り、さらに一ヶ月後にデモンストレーションの案内を送る、といったシナリオを自動化できます。
これによって、営業担当者は質の高いリードに集中できるようになり、効率的な営業活動が可能になります。
3. 展示会でのリード獲得の実践事例
展示会出展の戦略的意義
展示会は、多くの企業が「とりあえず出展」している感じもしますが、実は戦略的に活用すれば、非常に効果的なリード獲得の場になります。
支援先のある企業では、展示会出展によって、年間の新規顧客獲得の30%を達成しています。
展示会の良いところは、購買意欲の高い見込み客が集まってくることです。わざわざ時間を作って会場に足を運んでいるということは、何らかの課題を抱えて解決策を探しているということですから。
効果的なブース設計
ブースの設計は、単純に見た目を良くするだけじゃダメです。来場者の行動を促す仕組みを作り込むことが重要です。
成功事例として、あるIT企業の事例を紹介します。
この企業は、ブースの入り口に「3分で分かる業務効率化診断」というタブレットを設置しました。来場者が簡単な質問に答えると、その場で課題と解決策の提案書が出力される仕組みです。
これによって、来場者は自然にブースに足を向けるようになり、さらに診断結果を説明する流れで商談につなげることができました。
また、体験型のデモンストレーションも効果的です。単純に商品を展示するだけではなくて、実際に触って体験してもらうことで、商品の価値を実感してもらえます。
来場者との効果的な関係構築
展示会では、限られた時間で多くの来場者と接触することになります。だからこそ、
効率的な関係構築が重要になります。
以下のような、質問テンプレートを用意しておくことも効果的です。
- 「今日はどのような課題解決のために来場されましたか?」
- 「現在、○○について困っていることはありますか?」
- 「もし理想的な解決策があるとしたら、どのような条件が必要ですか?」
これらの質問を通じて、来場者のニーズを的確に把握し、自社の商品・サービスとのマッチングを図ります。
また、フォローアップの仕組みも重要です。展示会で名刺交換した人たちに、どのタイミングで、どのような内容でアプローチするかを事前に決めておく必要があります。
商談化率を高めるテクニック
展示会での接触を確実に商談につなげるために、段階的なアプローチを心がけます。
- 第1段階:関係構築 展示会当日は、相手の課題を聞いて、自社の価値を簡潔に伝えるに留めます。
- 第2段階:詳細提案 展示会後1週間以内に、個別のフォローアップを行います。展示会での話を踏まえて、具体的な提案資料を作成します。
- 第3段階:商談設定 提案資料を送付した後、1週間以内に商談のアポイントを取ります。
このように段階を踏むことで、展示会での接触を確実に商談につなげることができます。
4. 顧客データの効果的な収集と管理
データ収集の戦略的重要性
現代の営業では、データが全てと言っても過言ではありません。でも、多くの企業が「データを集める」ことに注力して、「データを活用する」ことを軽視している気がします。
重要なのは、目的を明確にしてからデータを集めることです。
例えば、リピート率を上げたいのか、単価を上げたいのか、新規開拓を効率化したいのか。目的によって、集めるべきデータは変わってきます。
収集すべきデータの種類
BtoBの営業で収集すべきデータは、大きく分けて以下の4つです:
①基本情報データ
- 企業名、所在地、従業員数、売上規模
- 業界、事業内容
- 担当者の役職、部署
②行動データ
- Webサイトの閲覧履歴
- メール開封率、クリック率
- 資料ダウンロード履歴
- セミナー参加履歴
③ニーズデータ
- 現在抱えている課題
- 予算規模
- 導入時期
- 決裁プロセス
④関係性データ
- 過去の接触履歴
- 競合他社の利用状況
- 紹介元の情報
- データ収集の具体的方法
Webサイトでの収集
Webサイトに訪問した企業を特定できるツールを活用します。IPアドレスから企業を特定し、どのページを見ているかを追跡することで、興味関心の度合いを測ることができます。
フォームの最適化
資料ダウンロードやセミナー申し込みのフォームを最適化して、必要な情報を効率的に収集します。ただし、項目数が多すぎると離脱率が高くなるので、バランスが重要です。
営業活動での収集
商談や電話での会話の中で、自然に情報を収集します。相手の課題や状況を聞き出すための質問テンプレートを用意しておくと効果的です。
データ管理の重要性
集めたデータは、CRM(顧客関係管理)システムで一元管理することが重要です。
データが散在していると、せっかく集めた情報を活用できません。営業チーム全員が同じデータを見られる環境を作ることで、チーム全体の営業力を向上させることができます。
また、データの品質管理も重要です。古い情報や間違った情報が混在していると、効果的な営業活動ができません。定期的にデータをクリーニングして、品質を保つ仕組みを作る必要があります。
5. データ分析と営業戦略への活用
データ分析の基本的な考え方
データ分析って、難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は営業現場で使えるレベルの分析は、そんなに複雑じゃないんです。
重要なのは、「なぜそうなったのか」を考える習慣を身につけることです。
例えば、今月の売上が前月比で20%減少したとします。多くの営業マンは「頑張りが足りなかった」で済ませてしまいがちですが、データを分析すると、もっと具体的な原因が見えてきます。
新規アポイント数は変わらないが、商談化率が下がっている
商談化率は変わらないが、受注率が下がっている
受注率は変わらないが、単価が下がっている
このように、どこに問題があるかを特定することで、効果的な改善策を打つことができます。
営業プロセスの可視化
営業プロセスを数値で可視化することで、ボトルネックを特定できます。
営業ファネル分析
- リード獲得数
- アポイント獲得数
- 商談化数
- 提案数
- 受注数
各段階の転換率を計算することで、どの段階で最も多くの見込み客を失っているかが分かります。
例えば、アポイント獲得から商談化への転換率が低い場合は、初回訪問時のヒアリングスキルや提案内容に問題がある可能性があります。
顧客セグメント別分析:業界、企業規模、地域などでセグメント分けして、それぞれの特性を分析します。弊社が支援したある企業では、製造業向けの営業は受注率が高いが単価が低く、サービス業向けの営業は受注率が低いが単価が高いという傾向が見えました。この分析結果を踏まえて、製造業向けはボリューム重視、サービス業向けは質重視の戦略を取ることで、全体の売上を最大化することができました。
予測分析の活用:過去のデータから、将来の売上を予測することも可能です。
受注予測:各案件の受注確率を、過去のデータから予測します。案件の特性(業界、規模、競合状況など)と過去の受注実績を照らし合わせることで、精度の高い予測が可能になります。
需要予測:季節性や市場トレンドを分析して、需要の変動を予測します。例えば、年度末に向けて予算消化の案件が増える傾向がある場合は、その時期に向けて営業活動を強化します。
改善施策の立案:データ分析の結果を踏まえて、具体的な改善施策を立案します。
A/Bテスト:提案書のフォーマットやアプローチ方法を変えて、どちらが効果的かをテストします。
営業スキルの向上:データ分析で特定された課題に対して、具体的な研修や指導を行います。
プロセスの改善:営業プロセスの中で効率の悪い部分を特定し、改善します。
6. 優先順位付けとリソース配分の最適化
優先順位付けの重要性
営業の活動は、やることが多岐にわたります。だからこそ、何に集中するかを決めることが成功の鍵になります。「とりあえず数撃てば当たる」的なアプローチは効率も落ちるし、何よりも顧客にとって迷惑です。限られた時間とリソースを最大限に活用するために、科学的な優先順位付けが効果的なのです。
顧客価値による優先順位付け
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を基準に、優先順位を付けます。
LTVは、一人の顧客が生涯にわたって自社にもたらす価値を数値化したものです。以下が、算出する公式です。
LTV = 年間購買額 × 継続年数 × 粗利率
例えば、年間100万円の商品を3年間継続して購入し、粗利率が30%の顧客のLTVは: 100万円 × 3年 × 30% = 90万円
この計算を見込み客に対しても行うことで、どの見込み客に最も力を入れるべきかが明確になります。
受注確率による優先順位付け
受注確率も重要な指標です。
過去のデータを分析して、各見込み客の受注確率を算出します。
受注確率を決める要因は、企業によって異なりますが、一般的には以下のような要素があります:
- 予算の有無
- 決裁権限の有無
- 競合他社の有無
- 導入時期の明確さ
- 過去の取引実績
これらの要素を点数化して、受注確率を算出します。
リソース配分の最適化
期待値を使って、リソース配分を最適化します。
期待値 = LTV × 受注確率
例えば:
• 顧客A:LTV 100万円、受注確率 80% → 期待値 80万円
• 顧客B:LTV 200万円、受注確率 30% → 期待値 60万円
この場合、顧客Aの方が期待値が高いので、優先的にリソースを投入します。
営業活動の効率化
タイムマネジメント〜優先順位の高い顧客には、より多くの時間を割り当てます。
例えば、期待値の高い顧客には月2回訪問し、期待値の低い顧客には月1回の電話フォローに留めるなど、メリハリをつけます。
チーム体制の最適化〜経験豊富な営業マンは高単価・高難易度の案件を担当し、新人営業マンは低単価・低難易度の案件から始めるなど、チーム全体の効率を最適化します。
7. 長期的な関係構築と継続的な成長
顧客満足度の向上
新規顧客を獲得したら、そこで終わりじゃありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。
カスタマーサクセスの概念を取り入れて、顧客が自社の商品・サービスを使って成功することを支援します。
定期的に顧客の状況をヒアリングし、課題があれば積極的に解決策を提案します。これによって、顧客満足度を高め、継続率を向上させることができます。
クロスセル・アップセルの戦略
既存顧客への追加提案は、新規顧客獲得よりもはるかに効率的です。
クロスセルでは、現在利用している商品・サービスに関連する別の商品・サービスを提案します。
アップセルでは、現在利用している商品・サービスのグレードアップを提案します。
重要なのは、顧客の成功を第一に考えることです。売上アップが目的ではなく、顧客の課題解決が目的であることを明確にすることで、信頼関係を深めることができます。
紹介獲得の仕組み作り
満足度の高い顧客からの紹介は、最も質の高いリードです。
紹介プログラムを作って、顧客が紹介しやすい環境を整えます。
例えば、紹介用の資料やツールの提供や紹介先との商談設定のサポートを構築します。
また、定期的な関係維持も重要です。年に数回、顧客と接触する機会を作って、関係性を維持します。
継続的な改善
営業スキームは、一度作ったら終わりではありません。市場環境や顧客のニーズは常に変化しているので、継続的な改善が必要です。
PDCAサイクルを回して、常にスキームを最適化します。
- Plan(計画):現状分析と改善計画の立案
- Do(実行):計画に基づいた施策の実行
- Check(評価):結果の測定と分析
- Action(改善):分析結果を踏まえた改善策の実施
月次や四半期ごとに振り返りを行い、データに基づいた改善を継続します。
◾️ 成功する営業スキームの構築
ここまで、法人営業における新規顧客獲得のスキームについて、詳しく解説してきました。
以下が、重要なポイントです。
1. 戦略的な思考:目の前の案件だけでなく、長期的な視点で全体を設計する
2. データの活用:勘や経験だけでなく、データに基づいた意思決定を行う
3. プロセスの標準化:個人のスキルに依存せず、再現性のある仕組みを作る
4. 継続的な改善:市場環境の変化に対応して、常にスキームを最適化する
これらの要素を組み合わせることで、継続的に新規顧客を獲得できる営業スキームを構築できます。
営業は「戦略的技術」です。正しい方法論を身につけて、継続的に改善を続けることで、必ず成果を出すことができます。
私がいつも営業組織の研修でお伝えしているのは、
「顧客の成功が、自分の成功」
ということです。自分の売上や成績だけを考えるのではなく、顧客が抱えている課題を解決し、顧客の成功を支援することに集中してください。
そうすることで、自然と売上もついてきますし、長期的な関係を築くことができます。
法人営業でのマーケティングの重要性については、以下の動画でも説明しています。参考にしてください。
このブログでは、マーケティングや営業に役立つ記事を掲載しています。 他の記事も読み、ビジネスの参考にしてください。
執筆者
家電メーカー、石油会社、大型車両メーカー、高機能フィルムメーカー、建築部品メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、顧客視点の顧客文化にするマーケティング社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で24冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
マーケティングを自社に取り入れたい、営業チームを活性化したい、新しいビジネスを軌道に乗せたいなど、この記事やマーケティングについて知りたいこと、聞いてみたいことは、マーケティングアイズ株式会社のフォームからお気軽にどうぞ(以下をクリックください)