営業のモチベーションを上げる社員教育の方法:売上が続くチームをつくるマネジメント

営業チームのモチベーションを科学的に高める方法
〜"やらされ感"が消えた瞬間に、営業は勝手に走り出す〜
「営業チームのモチベーションをどうやって上げるのか?」
これは多くの経営者や営業マネージャーから寄せられる相談の一つです。「気合だ!根性だ!」と声を張り上げる時代は終わりました。もちろん気持ちは大事ですが、それだけでは長続きしません。むしろ「やらされ感」が強まるだけで、チームは疲弊してしまいます。
この記事では、心理学と実際の営業現場のデータに基づき、 「科学的にモチベーションを上げる方法」 を整理していきます。特に、私が多くの企業研修やコンサルティングで取り入れている 自己決定理論(Self-Determination Theory) を中心に解説します。
目次
1. 従来のモチベーション理論の限界
まずは、従来よく使われてきた「やる気を出させる方法」を整理してみましょう。営業の世界では、主に以下の3つが多く取り入れられてきました。
(1) 報酬理論(アメとムチ)
「売上達成したらボーナス!」「未達成ならペナルティ!」
外部からの刺激によって行動を促すやり方です。短期的には効果がありますが、長期的には「報酬がなければ動かない」という副作用が生じます。
(2) 精神論・根性論
「気合だ!」「ハングリー精神で!」
日本の営業現場では長く根付いてきましたが、時代が変わり価値観も多様化しています。再現性がなく、属人的になりがちです。
(3) 目標管理理論
「SMARTな目標を立てる」「KPIを数値で管理」
合理的ではありますが、数字だけを追わせると「ノルマ地獄」に陥り、やはり長期的なモチベーションにはつながりません。
これらに共通するのは 外発的動機づけ に頼っていることです。つまり、上司や会社から「やれ」と言われて動く状態です。米国の大学による共同研究でも、外発的動機は短期的には効果があるものの、長期的にはパフォーマンス低下や離職率の上昇につながることが分かっています。
数字のプレッシャーは、たしかに一時的な瞬発力を引き出します。しかし同時に、成果の波を大きくし、翌月の反動や燃え尽きを招きやすい側面があります。MBOやSMART目標といった枠組みは理論として有効ですが、運用を誤ると「数値先行」になり、本人の納得を伴わないまま行動を追わせてしまいます。結果として、"やらされ感"が強まり、長期の安定的な成果から遠ざかってしまうのです。外発的動機に依存したマネジメントが短期○/長期×になりやすいのは、人間の脳が本能的に「強制される感覚」を嫌うからだ、という点をまず押さえておきましょう。
2. 自己決定理論とは何か?
こうした従来型の限界を突破するのが、心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した 自己決定理論(SDT) です。
自己決定理論の基本はシンプルです。
「人は、自分でやりたいと感じたときに最も力を発揮する」
そして、人間には以下の3つの基本的欲求があるとされています。
- 自律性:自分でコントロールできている感覚
- 有能感:成長している、上達しているという実感
- 関係性:仲間とつながっている安心感
この3つが満たされることで、内発的なモチベーションが生まれ、営業は「やらされ感」から「自分ごと」へと変わっていきます。実際、私が支援した医薬品卸売業のクライアントでも、報酬制度を強化するのではなく、この3つを意識したマネジメントに切り替えた結果、売上は前年対比で15%伸び、離職率も大幅に減少しました。
自己決定理論の三要素である自律性・有能感・関係性は、どれか一つだけを極端に高めても効果が伸び切りません。三つを同時に、少しずつ底上げしていくことが、内発的動機を安定的に生み出す近道です。なお、Googleの大規模研究「プロジェクト・アリストテレス」でも、高業績チームの土台は心理的安全性にあると示されました。これは三要素のうち「関係性」の核であり、他の二つを機能させる基盤にもなります。まず土台を整え、そこに自律性と有能感を積み上げる――この順序感が実装のコツです。
3. 自己決定理論に基づく3つの実践アプローチ
(1) 自律性を高める:裁量と選択肢を与える
営業マネージャーはつい細かく指示を出したくなります。ですが、営業先からトークスクリプトまで全て決めてしまうと、メンバーは「言われたことをやるだけのロボット」になってしまいます。
実践例:
- 「今月の目標は◯◯件。どうやって達成する?」とプランを自分で考えさせる
- 「A案とB案、どちらで攻めたい?」と選択肢を提示する
- 施策の背景を説明して納得させる(腹落ちさせる)
人は自分で決めたことには一貫性を持とうとする心理(=一貫性の原理)があります。自律性を尊重すれば、自ら走り出す営業マンが増えるのです。
自律性は、「自分で考え、自分で選び、自分で決めた」という感覚から立ち上がります。現場では、上司が結論や手順を先に渡すのではなく、まず問いを渡します。「この案件、君ならどう攻める?」「目標◯件を、どう達成する案がある?」と質問し、本人の仮説を引き出します。そのうえで、「A案とB案のどちらで行く?」「訪問は午前と午後、どちらが成果が出やすい?」と、現実的な選択肢を提示して小さな意思決定を積み上げていきます。さらに、「なぜこの活動が必要なのか」を顧客視点で短く共有し、本人が腹落ちするまで対話します。人は自分で決めたことを続けようとする――一貫性の原理を、日々の会話設計で味方につけるイメージです。
(2) 有能感を高める:成長の見える化
営業現場では「今月の売上がいくら」という結果だけを評価することが多いです。これでは、うまくいかなかったときに「自分はダメだ」と思ってしまいます。
実践例:
- アポ取得率や提案書の改善スピードといった中間指標を評価する
- 「先週より声のトーンが良くなったね」と小さな改善をフィードバックする
- 失敗を責めず「次はどうする?」と問いかけ学びにつなげる
ゲームが面白いのはレベルアップが見えるからです。営業も同じ。成長が見えれば自然とやる気は続きます。
有能感は「できるようになっている」という実感から生まれます。売上という最終結果だけを見つめるのではなく、途中のプロセスを細かく観察し、改善の小さな兆しを拾い上げます。例えば、アポ取得率や商談化率、クロージング率の微細な変化、提案書作成のリードタイム短縮、商談時間の最適化、顧客からの定性的な反応などです。これらを固定の様式で記録し、スキルマップ(ヒアリング、課題定義、提案構成、価格交渉、フォローを五段階評価)や、月次の振り返りシート(できたこと/改善点/次月の実験/学びの転用先)に落とし込んで可視化します。フィードバックは「事実→気づき→次の一手」の順に短く返します。たとえば、「先週より質問の"間"が良かった(事実)。お客様の本音が出やすくなっているね(気づき)。次は最後にサマリーの復唱を入れてみよう(次の一手)。」という具合です。小さな前進を毎週一行で記録する"できたことログ"を続けると、ゲームのレベルアップのように成長が実感でき、自然とやる気が持続します。
(3) 関係性を高める:心理的安全性をつくる
人は一人ではモチベーションを維持できません。仲間とのつながりが必要です。Googleの調査でも「高パフォーマンスチームの共通点は心理的安全性」であることが示されています。
実践例:
- 失敗を責めず改善点を一緒に考える
- 「こんなこと聞いても大丈夫かな?」と思わせない雰囲気を作る
- 成功体験や失敗体験を共有する場を設ける
- お互いの努力を認め合う文化を育てる
「仲間が頑張っている。自分も頑張ろう」この感覚が生まれることで、チーム全体の底上げが可能になります。
関係性は、失敗を責めずに扱うことから育ちます。振り返りの場では、問いを「なぜ」と「次はどうする」の二つに絞り、原因探しではなく学習に焦点を当てます。質問は歓迎されるものだ、という合意を明文化し、「こんなこと聞いたらまずいかも」という不安を取り除きます。定例ミーティングでは三分×二件のショーケースを設け、成功事例と学び事例を短く共有します。案件レビューはペアで行い、うまい人の「思考の順番」を意図的に横展開します。こうした習慣が回り始めると、チームの基調音は「他の人も挑戦している。自分もやってみよう」へと自然に変わり、底上げが起きます。
4. 明日から使える3つのテクニック
最後に、営業マネージャーが 明日からすぐに実践できる方法 を紹介します。
- 1on1で「どう思う?」を増やす
指示より先にメンバーの意見を聞く。自律性を高めます。
- 週次で成長ポイントを1つ見つける
売上が下がっていても改善点は必ずある。成長の実感を与えます。
- チームで「今週の学び」を共有する
成功も失敗も共有することで、関係性とチーム学習を促進します。
すぐに現場へ投入するなら、会話の入口と週次の型を整えるのが効果的です。1on1の冒頭は「今、一番うまくいっていることは?」「止めたいこと/変えたいことは?」「次の一週間で試す小さな実験は?」の三問から始めます。週次では、各自がチャットに「今週の成長一行」を投稿し、チームは拍手だけで反応します。学びの共有は「やったこと/結果/学び/次の一手」を140字以内でまとめるテンプレを使い、全員が同じフォームで発信します。フォーマットを決めることで、負担は軽く、継続は容易になり、学習は蓄積されます。
5. 経営者・マネージャーへの示唆
経営者や営業マネージャーにとって大事なのは、モチベーションを「与える」ことではなく「引き出す」ことです。
気合や報酬では限界があります。人間の脳と心理を理解し、科学的なアプローチを組織に取り入れることで、営業チームは勝手に走り出します。そしてこれは単なる理論ではなく、現場で再現性のある仕組みです。中小企業であっても大企業と同じように、いやむしろ小規模だからこそスピーディーに導入できるのです。
導入の順番は、関係性(=安全性)の土台づくり、有能感(=見える化)の導入、自律性(=任せる範囲の拡大)の順がうまくいきます。土台がないまま任せると、不安が先に立ち、行動が硬直します。ありがちな失敗は、「任せる」と言いながら最終局面で結論だけを差し替えてしまうこと、数字しか褒めずプロセスを評価しないこと、失敗の後に詰問口調でやり取りして次の挑戦を止めてしまうことです。やると決めたら、会話の型・評価の型・共有の型を守り、まずは三週間、次に三ヶ月――小さな成功の連続で文化にしていきましょう。
まとめ
- 外発的動機づけ(報酬・精神論・目標管理)には限界がある
- 自己決定理論の3要素(自律性・有能感・関係性)を満たすことが重要
- マネージャーは「裁量を与える」「成長を見せる」「心理的安全性をつくる」ことがポイント
- 小さな実践(1on1の問いかけ、成長フィードバック、学びの共有)から始められる
営業のモチベーションは、与えられるものではなく、内側から湧き出すものです。
「やらされ感」が消えた瞬間に、営業は勝手に走り出す。その仕組みをつくるのが、経営者やマネージャーの大きな役割です。
? あなたの会社の営業チームは「やらされ感」に縛られていませんか?
ぜひこの記事を参考に、モチベーションを科学的にデザインしてみてください。
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執筆者
家電メーカー、石油会社、大型車両メーカー、高機能フィルムメーカー、建築部品メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、顧客視点の顧客文化にするマーケティング社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で24冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
マーケティングを自社に取り入れたい、営業チームを活性化したい、新しいビジネスを軌道に乗せたいなど、この記事やマーケティングについて知りたいこと、聞いてみたいことは、マーケティングアイズ株式会社のフォームからお気軽にどうぞ(以下をクリックください)