営業効率と売上を上げるマーケティング的セールスファネルの作り方

◾️【営業リーダー必見!】 見込み客を契約へ導くプロセスの重要性
法人向け営業(BtoB)では、単に商品を売り込むだけでなく、見込み客を効率的に契約まで導く明確なプロセス管理が欠かせません。高額で検討期間が長い「高関与商材」を扱う製造業の営業ではなおさらです。
多くの見込み客が最終的に契約に至るまでには認知、興味、比較検討、提案、交渉といった 顧客の購買プロセス を段階的に経る必要があります。このプロセスを適切にマネジメントできれば、どの段階でボトルネックが発生しているかを把握して改善策を打てるため、営業効率と売上の向上につながります。
逆に言えば、プロセスが不明確なままではせっかくの見込み客を逃してしまいかねません。特に中小企業では貴重なリソースを無駄にしないためにも、「どうすれば効率よく契約まで導けるか」という視点で営業プロセスを見直すことが重要なのです。
- 目次
◾️ なぜ従来の営業アプローチは通用しなくなってきたのか?
まず、現代の営業環境がどう変化しているのかを理解しましょう。
かつての営業は「KKD(経験・勘・度胸)」に頼った属人的なものでした。優秀な営業マンの「なんとなくこうすれば売れる」という感覚や、「闇雲に数をこなす」アプローチが通用していた時代があります。
しかし今や顧客を取り巻く環境は、以下のように大きく変わりました:
情報の非対称性の崩壊:インターネットの普及により、顧客は自分で情報収集ができるようになり、営業担当者からの情報提供の価値が相対的に下がっている
顧客の購買行動の変化:商品やサービスを比較検討するプロセスが長くなり、複数の意思決定者が関わるようになった
デジタルチャネルの多様化:顧客との接点が複数のチャネルに分散し、一貫した体験を提供することが難しくなっている
顧客の期待値の上昇:単なる商品説明ではなく、顧客固有の課題を理解した提案が求められるようになった
このような変化の中で、従来型の「売り込み営業」はますます効果を失っています。
◾️ 売り手視点のセールスファネルの限界
営業の現場では、「とにかくアポを取って、商品の良さを伝えれば売れる」という思い込みがまだ根強く残っています。しかし実際には、顧客は自社の課題解決につながらない提案や、自分たちのビジネスを理解していない営業担当者からの接触に辟易としているのです。
このようなKKD(感と経験と度胸)に頼る営業は、しばしば売り手目線に陥りがちです。自社の商品をとにかく売り込もうとするあまり、顧客の真のニーズや購買タイミングを無視してアプローチしてしまうケースも少なくありません。その結果、関心が低い見込み客に無理に提案して敬遠されてしまう、せっかく見込み客がいても適切なフォローができず成約に至らない、ということになってしまいます。
セールスファネルについては以下の記事で詳しく説明しているので参考にしてください。
▶️ セールスファネルとは?法人営業の課題を解決する売れる仕組みの作り方
では、セールスファネルを取り入れればうまくいくのでしょうか?
従来型の「売り手視点」のセールスファネルの段階は以下のようになっています:
1. リード獲得:潜在顧客のリストを作る
2. アプローチ:電話やメールで接触する
3. ニーズヒアリング:顧客の課題をヒアリングする
4. 提案:自社製品・サービスを提案する
5. クロージング:契約を取る
6. アフターフォロー:契約後のフォローをする
一見すると理にかなったプロセスに見えますが、このアプローチには重大な欠陥があります。
最大の問題点は、このプロセスが「顧客がどう考え、何を必要としているか」ではなく、「自社の商品をどう売るか」を中心に設計されていることです。
例えば、典型的な営業プロセスでは「アプローチ」の段階で営業担当者が一方的に電話をかけ、「ヒアリング」の名目で実際には自社製品の説明に多くの時間を割き、「提案」では顧客の状況とはかけ離れた標準的な提案書を提出する、というパターンが少なくありません。
これでは顧客側からすると:
• 自分たちが抱える本当の課題を理解してもらえていない
• 必要のない情報や提案に時間を取られている
• 自分たちのビジネスプロセスや意思決定プロセスを尊重されていない
といった不満が生じるのです。
ある中堅製造業のA社では、営業部門が月間200件以上の見込み客にアプローチしていましたが、最終的な成約率はわずか2%程度でした。詳しく分析すると、営業担当者が「自社製品の機能」を売り込むことに終始し、顧客が本当に抱えている課題や購買プロセスを理解していなかったことが明らかになったということもありました。
実際、旧来型の飛び込み訪問や接待で関係構築を図る手法は、コロナ禍以降特に得意先で受け入れられなくなり、自社の営業の負担も大きくなっています。
中小企業では「限られた営業リソースでいかに効率よく受注確度を高めるか」が大きな課題となっています。こうした属人的・売り手主体の営業手法の限界を乗り越えるには、営業プロセスそのものを顧客視点に立って再構築する必要があります。
◾️ 顧客心理に沿ったセールスファネルへの転換
そこで鍵となるのが 「セールスファネル」 を活用した営業プロセスの再設計です。セールスファネルとは、本来マーケティングで使われてきた「ファネル(漏斗=じょうご)」の考え方を営業に応用し、見込み客の心理状態に合わせて段階的にアプローチを設計するフレームワークを指します。
漏斗の入り口にあたる"広く開いている"上部では多くの潜在顧客を集め、段階を追って関心度の高い見込み客へと絞り込み、最終的に契約に至る顧客を増やしていくアプローチです。ポイントは、このファネルを単なる営業管理ツールではなく 「顧客の購買心理に寄り添ったプロセス」 として捉えることにあります。
マーケティングファネルの発想では、「知らない」「興味がない」状態の見込み客を、理解・納得し信頼して購入に至る顧客へと変えていくことに主眼が置かれます。言い換えれば、顧客が購入に踏み切るまでの心理的ハードルを一つ一つ取り除き、自社製品・サービスの価値を段階的に伝えていくのです。
顧客企業が購買に至るプロセスは以下のようになります。
課題認識(Awareness):顧客が自分たちの抱える課題や問題に気づく段階
情報収集(Research):課題を解決するための方法や選択肢について情報を集める段階
選択肢検討(Consideration):複数の選択肢を比較検討する段階
意思決定(Decision):特定のソリューションを選び、購入を決める段階
利用・評価(Usage & Evaluation):実際に製品・サービスを使い、評価する段階
顧客は上記のような心理状態の中、それぞれのフェイズで行動をします。その顧客の行動を促すように、セールスファネルを組み立てるのです。以下が事例です。
認知フェーズ:
「まずは知ってもらう」段階。潜在顧客に自社や製品の存在を知ってもらい興味を喚起する。プッシュ型の売り込みではなく、ブログ記事やセミナーなど役立つ情報発信によって注意を引きます。
関心・検討フェーズ:
「信頼してもらう」段階。見込み客が関心を持ち始めたら、課題解決事例やデモ提供などでより深い情報を提供し、自社への信頼感を醸成します。ここでは顧客は複数の選択肢を比較検討しており、的確な情報提供で自社を有力な候補に位置づけます。
提案・評価フェーズ:
「価値を提案する」段階。顧客のニーズをヒアリングした上で、最適なソリューションとして自社商材を提案します。他社との差別化ポイントや導入メリット(コスト削減や生産性向上など)を明確に示し、顧客社内での稟議を後押しできる材料を提供します。
意思決定フェーズ:
「契約してもらう」段階。最終的な条件調整や不安の払拭を行い、契約締結に導きます。契約後のサポート体制も伝えることで安心感を与え、スムーズな意思決定を促します。
このようにセールスファネルでは、顧客の購買プロセスに合わせて営業側のアクションをあらかじめ定義しておく点が従来の属人的営業との大きな違いです。ファネルを設計・運用することで、「次に何をすべきか」「どの見込み客に注力すべきか」がチームで共有でき、誰もが顧客目線で一貫性のある営業活動を実践できるようになります。結果として、顧客にとっても必要な情報を必要な時に提供されるため購買体験の質が上がり、満足度やロイヤルティ向上にもつながります。単発の受注獲得に留まらず、その後の長期的な関係構築の出発点と捉えられるのも、顧客視点のファネルならではのメリットです。
◾️ 【事例】高関与BtoB製造業での具体例:ファネル導入の取り組み
それでは、実際に高関与商材を扱うBtoB製造業が顧客視点のセールスファネルを導入し、営業改革に成功した例を見てみましょう。例えば 「部品メーカーA社」 を想定します。
A社は中小規模の製造業で、自動化機械用の専門部品を製造・販売しています。取引先となる顧客企業(製造業)は、自社の機械に組み込む部品について専門知識を持ち、普段から業界の有力メーカーの情報をチェックしています。
顧客企業の担当者は主要な部品メーカー2~3社の最新カタログを手元に置き、新製品情報にも常に目を光らせているような状況です。つまり、顧客側は既に一定の知識とお気に入りのサプライヤーを持っており、新規参入の余地は一見狭そうに見えます。
A社も従来は、社長や営業担当者が足しげく顧客を訪問したり懇親の席を設けたりしながら人間関係を深め、何とか自社製品を採用してもらうという KKDスタイル に頼っていました。しかしこの方法では、コロナ禍で対面機会が減ったことも相まって営業効率が悪く、属人的なやり方に限界を感じていたのです。
そこでA社は営業プロセスにセールスファネルを取り入れ、大胆な改革に踏み切りました。その核心は「顧客のニーズが顕在化する前から価値提供を始める」というアプローチです。具体的には、コンテンツマーケティングの手法を使って、次のような2段階の施策を実行しました:
*コンテンツマーケティングについては以下の記事で説明しているので参考にしてください。
▶️ コンテンツマーケティングとは?なぜ、BtoBマーケティングに有効なのか?その理由とメリット・デメリット
フェーズ1:ニーズ顕在前(認知・関心フェーズ)
まず見込み客リストを整備し、部品の選定に役立つノウハウや業界最新情報をまとめたブログ記事を週1回発信しました。さらに「失敗しない部品選定3つのポイント」など50ページ程度の無料ホワイトペーパー(電子冊子)を自社サイトで提供し、ダウンロードしてくれた企業担当者の情報を収集しました。
このようにデジタルコンテンツを通じて継続的に有益な情報発信を行い、「まずは知ってもらい信頼してもらう」ことに注力したのです。顧客企業からすれば、まだ具体的な購入ニーズがない段階でも役立つ知識を得られるため、A社に対する好印象と認知度が徐々に高まっていきます。
フェーズ2:ニーズ顕在時(提案・契約フェーズ)
継続的な情報提供の中で、例えばホワイトペーパーをダウンロードした担当者がメール内の製品紹介リンクをクリックしたタイミングを、「ニーズが具体化した兆候」 として営業チームにアラートで共有しました。営業担当者はそのタイミングを逃さず、「最近〇〇の課題はありませんか?」と電話やオンライン会議でコンタクトを取り、顧客の状況ヒアリングや課題整理を行いました。
信頼関係ができていますから話もスムーズです。そして顧客の課題にマッチする自社部品の導入メリットを試算付きで提案し、必要に応じて既存ユーザーの導入事例や工場での実証データも提示しました。こうして顧客が社内稟議を上げやすい材料を揃え、最終的な契約へ結びつけました。契約後も定期フォローや追加提案を行い、長期的な関係維持に努めています。
この取り組みにより、A社では 問い合わせ件数や商談数が飛躍的に増加 しました。営業担当者がじっと顧客の検討を待つのではなく、デジタル施策によって早い段階から接点を持てたことで、新規リード(見込み客)の獲得数が拡大したのです。また、適切なタイミングで提案アプローチできるようになった結果、成約率も向上しました。
セールスファネル導入で狙うこと
ファネル導入で狙うポイントは「関心度の高い見込み客」だけを確度の高い商談に絞り込み営業の歩留まりを改善すること、さらに提案から契約への転換率(コンバージョンレート)を上げることです。
さまた、リードタイム(初回コンタクトから受注までの期間)の短縮も狙えます。例えば、ファネル導入前は平均6か月かかっていた案件リードタイムを、コンテンツ提供で事前に顧客への周知や啓蒙をすることで、約4か月に短縮する、といった具合です。
このように、ファネルを軸としたアプローチへの転換は売上増加と営業効率向上に直結する効果を狙うのです。
◾️ 顧客視点のセールスファネルの構築方法
では、具体的にどのように顧客視点のセールスファネルを構築すればよいのでしょうか?以下のステップで考えていきましょう。
Step 1: 顧客の購買プロセスを詳細に理解する
まず、顧客が実際にどのようなプロセスを経て購買に至るのかを理解することが重要です。
例えば、IT系のSaaSを販売している場合、顧客の購買プロセスは以下のように進みます:
- 課題認識:「従業員のコミュニケーションが円滑でなく、情報共有に問題がある」と気づく
- 情報収集:「社内コミュニケーションツール」について検索し、基本的な情報を集める
- 選択肢検討:複数のツールの機能、価格、導入実績などを比較検討する
- 意思決定:経営陣や実際の利用者を交えて最終的なツールを選定し、購入を決める
- 利用・評価:実際に導入して効果を測定し、継続利用するかを判断する
このプロセスを理解するためには、実際の顧客へのインタビューや、過去の成約事例の分析が有効です。特に以下のポイントを明らかにしましょう:
- 顧客はどのような「きっかけ」で課題を認識するのか?
- どのような情報源から情報を集めるのか?
- 意思決定に関わる人は誰で、各人はどのような観点で判断するのか?
- 最終的な決定を後押しする要因は何か?
Step 2: 各段階での顧客の心理状態と必要な情報を洗い出す
次に、購買プロセスの各段階で顧客が抱える疑問や不安、欲しい情報を整理します。
課題認識(Awareness)段階
- 心理状態:「何か問題がありそうだが、正確に言語化できていない」
- 必要な情報:課題の明確化を助ける情報、業界トレンド、ベンチマークデータなど
情報収集(Research)段階
- 心理状態:「様々な解決策があることは分かったが、何が自分たちに合うのか分からない」
- 必要な情報:課題解決のアプローチ比較、成功事例、基本的な製品情報など
選択肢検討(Consideration)段階
- 心理状態:「いくつかの選択肢に絞ったが、最終判断の材料が足りない」
- 必要な情報:詳細な仕様、価格体系、導入プロセス、他社との比較情報など
意思決定(Decision)段階
- 心理状態:「導入したいが、失敗するリスクを最小化したい」
- 必要な情報:具体的なROI、導入支援体制、契約条件、アフターサポート内容など
利用・評価(Usage & Evaluation)段階
• 心理状態:「実際に使ってみて、期待通りの効果が出ているか知りたい」
• 必要な情報:活用のベストプラクティス、効果測定の方法、追加サービスの情報など
これらを整理することで、「いつ」「どのような」情報やアプローチが顧客にとって価値があるのかが明確になります。
Step 3: 顧客接点と提供コンテンツを設計する
顧客の購買プロセスと各段階でのニーズが明確になったら、それに合わせた接点と提供するコンテンツを設計します。
課題認識(Awareness)段階
- 接点:ブログ、SNS、ウェビナー、業界レポートなど
- コンテンツ例:「〇〇業界における△△の課題と対応策」「経営者が見落としがちな3つのリスク」など
情報収集(Research)段階
- 接点:ホワイトペーパー、事例集、比較表、メールマガジンなど
- コンテンツ例:「課題解決のための3つのアプローチ比較」「導入企業の声:Before/After」など
選択肢検討(Consideration)段階
- 接点:製品デモ、無料トライアル、個別相談会、見積もりなど
- コンテンツ例:「あなたの会社に最適なプラン診断」「導入シミュレーション」など
意思決定(Decision)段階
- 接点:提案書、ROI計算ツール、契約書、導入計画書など
- コンテンツ例:「導入後の効果予測レポート」「スムーズな移行のためのロードマップ」など
利用・評価(Usage & Evaluation)段階
- 接点:カスタマーサポート、定期レビュー、ユーザーコミュニティなど
- コンテンツ例:「活用度を高めるTips集」「効果測定レポートテンプレート」など
重要なのは、これらの接点やコンテンツが顧客の購買プロセスに沿って自然に流れるように設計することです。
Step 4: 営業プロセスを再設計する
最後に、これまでの分析を基に、具体的な営業プロセスを再設計します。
従来の「売り手視点」のプロセスとは異なり、顧客視点のセールスファネルでは、顧客の購買プロセスの段階に合わせて営業活動を設計します。例えば:
課題認識(Awareness)段階
- 営業活動:業界の課題に関するセミナーの開催、潜在顧客へのインサイト提供
- KPI例:コンテンツ閲覧数、セミナー参加者数、資料ダウンロード数
情報収集(Research)段階
- 営業活動:顧客の課題を深掘りするヒアリング、参考事例の紹介
- KPI例:問い合わせ数、資料請求数、初回面談数
選択肢検討(Consideration)段階
- 営業活動:顧客固有の状況に合わせたソリューション提案、比較検討のサポート
- KPI例:提案書提出数、デモ実施数、見積り依頼数
意思決定(Decision)段階
- 営業活動:意思決定者の不安や疑問に対応、具体的な導入計画の提示
- KPI例:成約率、商談期間、平均契約金額
利用・評価(Usage & Evaluation)段階
- 営業活動:定期的な利用状況の確認、追加提案、アップセル
- KPI例:継続率、顧客満足度、クロスセル率
このように再設計することで、顧客の状態に合わせた最適なアプローチが可能になります。
◾️ ファネル活用がもたらす営業組織への組織・マネジメント的効果
顧客視点のセールスファネルを導入することで、どのような効果が期待できるでしょうか?従来の「売り込み型」営業から顧客視点のセールスファネルに切り替えることで、以下のような成果を目指します。IT機器販売のB社の事例とともに説明します。(数字は仮の数字です)
- 成約率の向上:従来の3%から15%へ大幅に向上
- 営業サイクルの短縮:平均6ヶ月から4ヶ月へ短縮
- 顧客単価の向上:初期提案よりも包括的なソリューション提案が可能になり、平均単価が30%向上
- 顧客満足度の向上:導入後のNPS(推奨度)が20ポイント向上
- 営業コストの削減:不要なアプローチや提案が減り、営業効率が向上
これらの効果が得られる理由は明快です。顧客視点のセールスファネルを導入することで以下のような営業活動の効率化を目指すのです。
- 顧客が必要とするタイミングで必要な情報を提供できるようにする
- 顧客の購買プロセスに合わせたコミュニケーションができるようになる
- 購買意欲の低い見込み客へのアプローチを減らし、リソースを効率的に配分できる
- 顧客視点の一貫した営業プロセスを確立することで、営業パフォーマンスのばらつきが減少する
◾️ 売れる仕組みへのアップデートを
セールスファネル導入によるメリットは、目に見える数字(売上や成約率)だけではありません。営業組織そのものにも大きな好影響があります。
1) 営業ノウハウの共有・平準化
まず、営業ノウハウの共有・平準化 です。属人的な営業では「このやり方は○○さんにしかできない」といった状況に陥りがちでした。しかしファネルに沿って営業活動を行うことで、各ステップで「何をすべきか」「どんな資料を使うか」「KPIは何か」が組織で共通化されます。
例えば「見込み客育成フェーズではホワイトペーパーを提供して信頼醸成する」「提案フェーズでは事例と効果シミュレーションを提示する」といった具合に、属人化しがちな営業の勘所を組織知として言語化・標準化できるのです。その結果、ベテランだけでなく新人や中堅のメンバーでも再現性の高い営業活動が可能となり、チーム全体の底上げが期待できます。
事実、健全な営業組織では「基本的な営業プロセスが標準化され、成功事例やノウハウが組織全体で共有されている」ものだと指摘されています。ファネルはまさにその土台を提供するツールなのです。
2)営業スキルとマネジメントスキルの橋渡し
さらに、営業スキルとマネジメントスキルの橋渡しという観点でもファネルは有効です。優秀な営業パーソンが必ずしも優秀な営業マネージャーになれない背景には、「自分一人で売るスキル」と「組織で成果を出すスキル」の違いがあります。
営業スキルが個人のパフォーマンス最大化を目指すのに対し、マネジメントスキルはチーム全体のパフォーマンス向上を目指すものです。ファネルを導入すると、マネージャーは各段階の数字(リード数、商談化率、成約率など)をモニタリングしながらボトルネックを発見し、的確に部下に指導できます。
属人的な営業では上司も経験や勘に頼らざるを得なかった指導が、ファネルという「見える化」ツールによって科学的に行えるようになるのです。
例えば、「今期は興味喚起フェーズでリードを十分獲得できていないから、セミナー開催数を増やそう」「提案から契約への移行率が低いから提案内容を見直そう」といった具合に、データに基づくマネジメントが可能になります。これにより現場の営業パーソンも納得感を持って改善に取り組め、属人的な勘頼りでは得られなかった組織的な営業力強化が実現します。
3)顧客中心の文化改革と人材育成への波及効果
顧客視点のセールスファネルを導入することは、一種の 営業組織の文化改革 でもあります。ファネル浸透後のA社では、「まず顧客の役に立つ情報提供から始める」という姿勢が営業チームに根付きました。これは 顧客中心主義 の考え方が組織文化として醸成されたことを意味します。
営業会議でも「この施策は顧客の課題解決につながっているか?」が合言葉になり、単月の売上目標だけでなく顧客との長期的な関係価値が重視されるようになりました。さらに、ファネルで可視化されたデータを全員で共有し振り返ることで、継続的な改善(PDCAサイクル)の文化 も育まれています。
どの段階で見込み客が離脱したのかをチームで分析し、「では次回はこうしよう」と素早く施策を講じる流れが定着しました。属人的なやり方だと失敗も個人の責任になりがちでしたが、ファネルを共通言語にすることで チームで試行錯誤し学習する組織風土 が醸成されたのです。
これは人材育成の面でも大きな効果があります。新人営業パーソンもファネルに沿って動けばよいので、何をしていいか分からず途方に暮れることが減りました。属人ノウハウがブラックボックス化されていると新人教育で習得スキルにばらつきが出ますが、標準化されたプロセスに基づくOJTにより誰もが一定水準の顧客対応スキルを身につけやすくなります。
また、成功・失敗の知見がリアルタイムで共有される環境は新人の成長スピードを高め、ベテランにとっても自身の経験を言語化することで新たな気づきを得る機会になっています。
4)企業の持続的な競争優位
顧客視点の営業プロセス定着は 企業の持続的な競争優位にもつながります。常に顧客の声やデータに基づいて営業活動を改善していく姿勢は、変化の激しい市場環境において柔軟に対応できる強みとなります。
顧客から見ても「この会社は自分たちのことをよく分かってくれている」と映り、信頼関係が深まることでリピートや紹介が増えていくでしょう。結果として、単発の売上だけでなく 顧客生涯価値(LTV)の最大化 や強固なファン作りにも寄与し、長期的なビジネス成長を実現できるのです。
◾️ 売れる仕組みへのアップデートを
KKDに頼った属人的な営業から、データと顧客心理に基づく科学的な営業へ――顧客視点のセールスファネルを取り入れることは、中小企業の営業組織にとってまさに「売れる仕組み」へのアップデートと言えます。
高関与なBtoB商材を扱う製造業ほど、その効果は大きいでしょう。本記事で述べたように、ファネルは見込み客を着実に育成して効率よく契約に導く道筋であり、営業の勘所を組織で共有するナレッジツールであり、ひいては営業文化を変革する原動力でもあります。
もし現在、営業業績や育成に伸び悩んでいると感じているなら、一度自社の営業プロセスを顧客の購買ステップに沿って見直し、ファネルという 新たな地図 を描いてみてください。それは貴社の営業力を次の次元に引き上げ、持続的な成長への扉を開くはずです。
このブログでは、マーケティングや営業に役立つ記事を掲載しています。 他の記事も読み、ビジネスの参考にしてください。
執筆者
家電メーカー、石油会社、大型車両メーカー、高機能フィルムメーカー、建築部品メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、顧客視点の顧客文化にするマーケティング社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で24冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
ファネルを見直したい、マーケティングを営業に取り入れたい、新しいビジネスを軌道に乗せたい、など、
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