BtoBビジネス・法人営業にマーケティングが必要な理由と導入ステップ〜個人商店から仕組み営業への転換戦略とマーケティング活用法

◾️ 【経営者必見!】マーケティングはBtoBビジネス、法人営業に必要か?
「うちの会社は、法人営業の会社なので、マーケティングは必要ないのです」
10年前まで「BtoBビジネス、法人向けの事業にはマーケティングは不要」と考える経営者の方も少なからずいました。
なぜなら、BtoBビジネスでは「営業担当者が顧客と直接やり取りし、信頼関係を構築することで売上を上げられる」と考えられていたからです。しかし、今この常識は大きく変わりました。
私がこれまで数多くの企業の営業組織改革に携わってきた経験から言えることは、この考え方では、
大きな機会損失を生んでしまう
ということです。BtoB市場において、マーケティングを重視し、自社に取り入れている企業は確実に増えています。そして、成果を出しています。
この記事では、
「なぜBtoB企業にマーケティングが不可欠なのか」
「そして営業組織がマーケティングマインドを持つことの重要性」
について、今のBtoBマーケティングを取り巻く状況と、私の実体験を交えながら解説していきます。
◾️ BtoB企業のマーケティング不要論という「常識」が覆された理由
現在、BtoB市場では根本的なパラダイムシフトが起きています。
従来の「優秀な営業担当者の個人力に依存する営業」から、「組織的な仕組みで成果を生み出す営業」へと変化しているのです。
背景には、AIやデジタル技術の進歩で市場が複雑化していることがあります。私が支援している企業では、5年前と比較して顧客が比較検討する競合他社の数が2倍以上になっています。さらに重要なことは、クライアント企業側での情報収集能力が格段に向上していることです。
かつては営業担当者が情報の主要な供給源でしたが、今では顧客が営業担当者と会う前に、インターネット、AI検索、業界レポート、SNSなどを通じて詳細な情報を収集しています。BtoB企業の大半は、初回商談前に複数の情報源から競合比較を行っているのです。
このような変化により、個人の経験や勘だけに頼る営業手法では限界があることが明らかになりました。複雑なった市場とクライアント側の情報武装に対応するためには、組織として一貫性のある戦略的アプローチ、つまり、
「仕組み化された営業」
が不可欠になったのです。
10年ほど前までは、確かにBtoB企業はマーケティングを必要としないという企業も少なからずありました。理由として、以下のようなことを挙げていたのです。
- 顧客数が限定的で、直接的な営業活動で十分だ
- 業界内の人脈やコネクションがあればいい
- 製品・サービスの差別化ができている
今の状況とは、まったく違う、というのが分かりますよね。支援先のある製造業の企業では、10年前まで営業担当者が年に数回の展示会と既存顧客への訪問だけで十分な売上を確保できていたが、今では同じアプローチでは新規顧客の獲得はおろか、既存顧客の維持さえ困難になってきています。
◾️ BtoB市場ではどんな変化が起きているのか?
現在のBtoB市場では、以下のような変化が起きています:
顧客ニーズの多様化
- 顧客企業自体がより複雑化し、意思決定プロセスも複雑になった
- 単純な製品提供だけでなく、総合的なソリューションが求められる
- カスタマイゼーションへの要求が高まっている
競争の激化
- グローバル化により競合他社が増加
- 新興企業の参入により、従来の業界構造が変化
- 価格競争だけでなく、価値提案力が重要になった
情報収集行動の変化
- 顧客は営業担当者に会う前に、インターネットで情報収集を行う
- 比較検討の精度が向上し、より厳しい目で選別される
- 口コミやレビューの影響力が増大
支援先のIT企業では、顧客の約70%が初回商談前にWebサイトやSNSで情報収集を行っていることが判明しました。つまり、営業担当者が顧客と接する前に、すでに勝負の大部分が決まっているのです。
◾️ BtoB企業にマーケティングが必要な3つの理由
理由1:顧客ニーズを理解し、的確な製品・サービスを提供するため
そもそも、顧客企業は、単に製品を買うのではなく、「問題解決」を求めています。
ある化学メーカーでは、長年、自社の技術力を前面に押し出した営業を行っていました。しかし、成約率は低迷していました。
詳細な顧客分析を行った結果、顧客が求めているのは「技術的な優位性」ではなく、「コスト削減と品質安定化の両立」だったことが判明しました。
そこで、マーケティング的アプローチを取り入れ、顧客の課題に焦点を当てた提案に変更し、成約率を向上させました。技術的な説明から課題解決型の提案に変更したことによる成果です。
理由2:競合他社との差別化を図り、選ばれる企業になるため
BtoB市場における差別化は、製品スペックだけでは実現できません。重要なのは「選ばれる理由」を明確に示すことです。
支援先の物流企業では、競合他社と似たようなサービスを提供していながら、なぜか値段の安さで選ばれることが多い状況でした。
マーケティング分析を行った結果、この企業には他社にない「顧客ニーズに対応できる柔軟性」という強みがあることが分かりました。しかし、この強みが適切に伝わっていなかったのです。
そこで、マーケティング戦略を見直し、具体的な事例やデータを用いてこの柔軟性を可視化した結果、新規顧客獲得数を増やすことができたのです。
理由3:顧客との信頼関係を築き、長期的なビジネス関係を構築するため
BtoBビジネスの本質は、長期的な関係構築にあります。単発の取引ではなく、継続的なパートナーシップを築くことが重要です。
ある建設資材メーカーでは、従来の「売り切り型」営業から「パートナーシップ型」営業への転換を支援しました。具体的には、顧客の事業計画に合わせた提案や、業界動向の情報提供を継続的に行うアプローチです。
その結果、単純な売上増加だけでなく、顧客の平均契約期間が倍以上に延長されました。これは、マーケティング的な視点で顧客との関係を再構築した成果です。
マーケティングと営業の違いについては、以下の記事でも説明していますので参考にしてください。
▶️ マーケティングと営業の違いとは?売上が伸びない理由と解決策と事例を徹底解説
◾️ 営業組織がマーケティングマインドを持つことの重要性
私が数多くの営業組織を見てきた中で、最も大きな違いは「視点の違い」です。
旧来の営業は以下のような視点で仕事を進めます。
- 自社製品・サービスの説明に重点を置く
- 短期的な売上目標の達成が主目的
- 顧客のニーズよりも自社の都合を優先しがち
一方で、マーケティングマインドを持った営業組織では、視点が顧客視点で仕事を進めるので、提案する内容もまったく違ったものになります。
- 顧客の課題解決に重点を置く
- 長期的な関係構築を重視
- 顧客の成功を自社の成功と捉える
具体的な変化と効果
マーケティングマインドを持った営業組織では、以下のような変化が起こります:
1. 顧客の視点に立って考え、顧客の問題を解決できる製品・サービスを提案できる
ある精密機器メーカーの営業チームでは、マーケティング研修を実施した結果、提案内容が劇的に変化しました。従来は「当社の製品は精度が高い」という技術的な説明が中心でしたが、研修後は「貴社の品質管理コストを30%削減できます」という顧客メリットを前面に出した提案に変わりました。
2. 顧客のニーズに合った適切な提案を行い、成約率を高められる
マーケティングマインドを持った営業担当者は、顧客の隠れたニーズを発見する能力が向上します。ある卸売商社では、営業担当者が顧客との会話の中で「物流コストの削減」という隠れたニーズを発見し、それに対応した提案を行った結果、想定を上回る大型契約を獲得しました。
3. 顧客との信頼関係を築き、リピーターやファンを獲得できる
継続的な価値提供により、顧客との関係は取引先から戦略的パートナーへと発展します。ある製造業では、営業担当者が業界動向の分析レポートを定期的に提供することで、顧客からの信頼度が向上し、新規事業への参画機会を獲得しました。
私はよく、マーケティングを舞台照明に例えて説明します。どんなに素晴らしい役者(製品・サービス)がいても、適切な照明(マーケティング)がなければ、その魅力は観客(顧客)に伝わりません。
優れた舞台照明は、主役を際立たせ、その感情を演出して、観客の注意を適切に誘導します。同じように、法人営業組織にマーケティングマインドが染み込んでくると、製品・サービスの価値を際立たせるために、ブランドのストーリーを伝え、顧客の注意を適切に誘導していけるようになるのです。
ある老舗の繊維メーカーでは、技術的には優れた製品を持ちながら、なかなか認知度が上がらない状況でした。この企業の「照明」を変えるアプローチを取りました。
Before・Afterで比べると、以下のような違いが出てきます。
Before(照明なし):
- 技術仕様中心の資料
- 工場見学中心の営業活動
- 業界専門誌への技術記事掲載
After(適切な照明):
- 顧客の成功事例を中心とした資料
- 顧客の課題解決プロセスを可視化した営業活動
- 業界動向と絡めた価値提案記事の発信
結果として、同じ製品の提案でも、顧客の反応は大きく変わりました。これは、製品の価値を適切に「照らす」ことで、顧客に伝わりやすくなったからです。
◾️ マーケティングが創造する「感情的なつながり」
BtoBビジネスでも、最終的な意思決定には感情が大きく影響します。私が関わったある企業では、論理的な提案だけでなく、顧客企業の企業理念や社会的使命に共感を示すアプローチを取り入れました。
提案書に「貴社の環境への取り組みに共感し、当社の技術でさらなる環境負荷軽減に貢献したい」という想いを込める、といった具合です。これにより、単なる取引先ではなく、同じ価値観を共有するパートナーとして認識されるようになりました。
◾️ 法人営業組織のマーケティング・マインドを浸透させるには
法人営業にマーケティングを取り入れる、ということは、S N Sをやるとか、A Iを取り入れる、ということではありません。まずは、社員のマインドを売り込み型から「顧客志向型」に転換することから始めることが必要です。手法を取り入れる前に、企業文化を顧客目線に変える必要があるのです。
このような人材育成には、効果が出るまでに時間がかかりますが、一度文化が変わりだすとその効果は持続的に続きます。その意味でも、マーケティング教育は、営業組織にとって投資対効果の高い取り組みです。
以下に事例と合わせて解説をしていきます。
研修の直接的効果:
- 提案力の向上による成約率改善
- 顧客ニーズの的確な把握による提案精度向上
- 競合他社との差別化による価格競争からの脱却
研修の間接的効果:
- 営業担当者のモチベーション向上
- 顧客からの信頼度向上
- 社内でのマーケティング意識の浸透
成功事例:製造業A社の変革
ある製造業では、全営業担当者20名に対して3ヶ月間のマーケティング研修を実施しました。
研修内容:
- 顧客分析手法の習得
- 価値提案の構築方法
- 競合分析とポジショニング
- 長期的関係構築の手法
結果:
- 平均成約率の改善
- 平均受注単価の向上
- 既存顧客からの追加受注の増加
- 営業担当者のやる気のアップ
この成果の根源は、営業担当者が「売る」から「価値を提供する」へと意識を変革できたことにあります。
◾️ マーケティングマインドを醸成する人材育成戦略
マーケティングマインドの醸成には、段階的なアプローチが効果的です。それぞれ段階の時に、以下のような到達目標を持たせることが重要です。
第1段階:顧客視点の重要性を理解
- 顧客の立場で考える習慣をつける
- 顧客の課題を深く理解する手法を身につける
- 自社目線から顧客目線へ意識を変える
第2段階:一連の流れで自社の"売れる仕組み"を立案・実行できる
- 自社、顧客、ライバルを的確に分析し売れるチャンスを見つけられる
- 自社・自分だけができる価値を見出せるようになる
- 正しい顧客に正しいタイミングでアプローチできるようになる
第3段階:顧客との信頼関係を築ける
- 長期的関係構築の重要をあらためて理解できる
- 経験や勘だけに頼らない営業ができるようになる
第4段階:売上アップに繋げる
- 戦略的な提案書が作成できるようになる
- 複数の選択肢を用意することで交渉力を上げる
- 成果測定と改善のサイクルを作れるようにする
営業やマーケティングでの人材育成は、単なる勉強とは異なります。以下のような実践的な要素を入れることで、成果を出せる教育ができるのです。
ケーススタディの活用
実際の顧客事例を用いたケーススタディは、理論と実践を結びつける最も効果的な手法です。私の支援の企業では、成功事例だけでなく失敗事例も共有し、学習効果を高めています。
ロールプレイング研修
顧客役と営業役に分かれたロールプレイングは、顧客視点を体感するという意味で今の時代も有効です。この時に重要なことは、ベテラン営業や上司が引っ張る形ではなく、若手社員に企画立案させることです。なぜなら、固定観念や成功体験があると新しいアイディアが出ないからです。若手に仮説構築をさせることで、今までにないアイディアを出しながら行うことができるのです。
継続的なフォローアップ
研修は一度きりではなく、継続的なフォローアップが重要です。月1回の振り返り会議や、成功事例の共有会などを通じて、学習内容を定着させます。
組織文化の変革
マーケティングマインドの醸成には、個人のスキル向上だけでなく、以下のような組織文化の変革も必要です。
評価制度の見直し:
- 短期的売上だけでなく、顧客満足度も評価対象に
- 長期的な関係構築への取り組みを評価
- チームでの知識共有を促進する仕組み
情報共有の促進:
- 顧客情報の組織的な蓄積と活用
- 成功事例の横展開
- 失敗から学ぶ文化の構築
◾️ BtoB企業の未来を切り開くマーケティング
現代のBtoB市場において、マーケティングは単なる「あればいいもの」ではなく、企業存続に関わる「必須要素」です。私がこれまで数多くの企業の変革を支援してきた経験から言えることは、マーケティングマインドを持った営業組織こそが、持続的な成長を実現できるのです。
重要なポイントをまとめます。
- 時代の変化への対応:顧客ニーズの多様化と競争激化により、従来の営業手法だけでは限界がある
- 差別化の実現:製品・サービスの優位性だけでなく、顧客への価値提供で差別化を図る
- 長期的関係の構築:短期的な売上より、継続的なパートナーシップを重視する
- 組織的な取り組み:個人のスキル向上と組織文化の変革を両輪で進める
- 継続的な改善:一度の研修で終わりではなく、継続的な学習と改善を行う
BtoB企業の経営者や営業責任者の皆様には、ぜひマーケティングの重要性を再認識していただき、組織的な取り組みを開始していただきたいと思います。変化の激しい現代市場において、マーケティングマインドを持った営業組織こそが、競争優位性を築き、持続的な成長を実現する鍵となるのです。
「優れた製品・サービスは適切なマーケティングによって、初めてその真価を発揮する」のです。
皆様の企業が、マーケティングという照明によって、その素晴らしさを顧客に伝えられることを心から願っています。
このブログでは、マーケティングや営業に役立つ記事を掲載しています。 他の記事も読み、ビジネスの参考にしてください。
また、この記事については以下の動画でも解説していますので、参考にしてください。
執筆者
家電メーカー、石油会社、大型車両メーカー、高機能フィルムメーカー、建築部品メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、顧客視点の顧客文化にするマーケティング社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で24冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典
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