マーケティングに必須のロジカルシンキングとは?〜ラテラルシンキングとの組み合わせ方

◾️ 【マーケター必見!】マーケティングに必須なロジカルシンキング
マーケティングには、ロジカルシンキングが必須です。
データでの意思決定が当たり前の今、論理的思考なしにマーケティングで成果を出すことはできないのです。しかし、私がこれまで数多くの企業のマーケティング戦略に携わってきた中で、ひとつ確信していることがあります。それは、
ロジカルシンキングは必要だが、十分ではない。
ということです。この不足している部分を「ラテラルシンキング」で補完できれば理想的なのです。
多くのビジネスパーソンが「ロジカルシンキングさえあれば大丈夫」と思い込みがちですが、それは大きな間違いだし、その逆もまた然り、です。
この記事ではその理由と、真に成果を出せるビジネスパーソンになるための思考法について解説します。
- 目次
◾️ なぜロジカルシンキングが「必須」なのか
まず大前提として、現代のマーケティングにおいてロジカルシンキングは絶対に欠かせません。
マーケティングは、サイエンスに基づいたアートなのです。複雑で日々変わる、混沌とした市場を相手にする上で、データ分析が必要です。そして、顧客から見えている部分、例えば、ホームページや広告、商談のようなクリエイティブ、はアートなのです。
「仮説 → 実行 → 検証 → 改善」のサイクルを回し続ける科学的なプロセスだからです。そして科学には、論理的な思考が不可欠です。
私がこれまで見てきた中で、成果が出ない企業の共通点がひとつあります。それは「感覚」や「経験」だけでマーケティングを行っていることです。
「なんとなくこの施策が良さそう」
「過去にうまくいったから今回も大丈夫」
「競合がやっているから真似しよう」
こういう思考だけでは、一度はうまくいっても、次につながる再現性のある成果は得られません。
データが意思決定の大前提
現代のマーケティングでは、あらゆる意思決定に以下のようなデータが求められます。
- どのチャネルに予算を配分するか → CPAやLTVのデータ
- どのメッセージが響くか → A/Bテストの結果
- どのタイミングで施策を打つか → 顧客行動の分析データ
これらを分析し、チャンスを見つけるには、ロジカルシンキングが必要です。データを正しく読み解き、そこから論理的に結論を導き出す力がなければ、正しい意思決定はできないのです。
構造化思考でマーケティング課題を解決
マーケティングの課題は複雑です。顧客、商品、市場、競合、チャネルなど、多くの要素が絡み合っています。
この複雑さを整理するために必要なのが「構造化思考」です。
例えば、「新商品が売れない」という課題があったとします。ロジカルシンキングでは、この課題を以下のように構造化します:
商品要因
- 機能・品質に問題はないか
- 価格設定は適切か
- パッケージ・デザインはどうか
市場要因
- ターゲット設定は正しいか
- 市場規模・成長性はどうか
- 競合状況はどうなっているか
プロモーション要因
- 認知度は十分か
- メッセージは響いているか
- チャネル選択は適切か
このように要素を分解し、それぞれをデータで検証することで、真の問題を特定できます。これがロジカルシンキングの威力です。
◾️ なぜ、ロジカルシンキングだけでは足りないのか?
ここまで読んで「やっぱりロジカルシンキングが重要だな」と思ったかもしれません。
しかし、私が伝えたいのはここからです。
ロジカルシンキングは必要ですが、それだけでは十分ではありません。
マーケティングはBtoCでもBtoBでも、人間を相手にします。しかし、人間は、必ずしも論理的に動くわけではありません。
人間は、感情で動く生き物なのです。
必ずしも論理的に行動する生き物ではないのです。
例えば、こんな経験はありませんか?
「スペック表で比較すれば明らかにA社の商品が優れているのに、なぜかB社の商品が選ばれる」
「論理的に考えれば当然A社のはずなのに、現実は違う」
これは「ブランドへの親しみやすさ」「営業担当者との相性」「なんとなくの安心感」といった、論理だけでは説明できない要素が影響しているからです。
BtoBでも同じです。稟議書には論理的な理由が並んでいても、最終的な意思決定には感情が大きく関わっているのです。
ロジカルシンキングの3つの限界
私がこれまで見てきた中で、ロジカルシンキングだけでは解決できない限界が3つあります。
限界1:
過去のデータに縛られる ロジカルシンキングは、既存のデータや事実に基づいて判断します。しかし、マーケティングで大きな成果を上げるには、時として「前例のないこと」をする必要があります。
限界2:
変化の兆しを見逃す 論理的分析は現状把握には優れていますが、まだデータに現れていない変化の兆しを察知するのは苦手です。消費者の潜在的なニーズや新しいトレンドの萌芽を見つけるのが難しいのです。
限界3:
革新的なアイデアが生まれにくい ロジカルシンキングは「正解」を導き出すのは得意ですが、「新しい可能性」を創造するのは不得意です。既存の枠組みの中での最適化はできても、枠組み自体を変える発想は生まれにくいのです。
実際の失敗事例:データ分析の罠
先日、ある企業でこんなことがありました。
ECサイトのコンバージョン率改善のプロジェクトで、チームは徹底的にデータ分析を行いました。ヒートマップ解析、ユーザー行動分析、A/Bテスト...あらゆるデータを収集し、論理的に改善点を特定。
その結果、コンバージョン率は確かに向上しました。しかし、わずか0.2%の改善でした。
一方で、同時期に競合他社は「1日限定の謎解きキャンペーン」という一見非論理的な施策で、コンバージョン率を3%も向上させていました。
この差は何でしょうか?ロジカルな改善では、既存の枠組みの中での最適化しかできなかった。しかし競合は、「ECサイト=商品を売る場所」という常識を破り、「エンターテイメントの場」として再定義したのです。
◾️ ラテラルシンキングで不足を補完する
ここで登場するのが「ラテラルシンキング」です。
ラテラルシンキング(水平思考)は、既存の枠組みにとらわれない発想法。ロジカルシンキングが抱える3つの限界を、見事に補完してくれます。
ラテラルシンキングについては、以下の記事で詳しく説明してるので参考にしてください。
▶️ ラテラルマーケティングとは?〜ロジカルシンキングとの比較を図解と事例で解説!
ラテラルシンキングが補完できるのは、以下のような領域です。
- 補完1:未来への洞察 過去のデータに縛られず、「もしこうなったら?」「こんな可能性はないか?」と未来を想像する力。まだ見えない変化の兆しを察知し、先手を打つことができます。
- 補完2:潜在ニーズの発見 顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを発見する力。データには現れない「本当は欲しいもの」を見つけ出すことができます。
- 補完3:革新的なソリューション 既存の常識を疑い、全く新しいアプローチを創造する力。業界の「当たり前」を破り、競合優位性を築くことができます。
成功事例1:食べるラー油の革命
「食べるラー油」は、ラテラルシンキングの完璧な成功例です。
ロジカルアプローチなら:
- 調味料市場は成熟している
- 差別化のためには品質向上が必要
- より良い原材料で、より美味しいラー油を作ろう
このロジカルなアプローチでは、「高級ラー油」しか生まれません。
ラテラルアプローチでは:
- そもそもラー油って何?
- 顧客が本当に欲しいのは調味料?それとも美味しい食事?
- 「かける」んじゃなくて「食べる」ラー油があったら?
この発想の転換で、調味料を「おかず」に再定義し、新しい市場を創造しました。
成功事例2:Netflixの戦略転換
Netflixも、ラテラルシンキングで成功した企業です。
当初のロジカル戦略:
- DVDレンタル市場でシェア拡大
- 店舗コストを削減し、郵送でコスト優位性を築く
- より多くのタイトルを揃えて差別化
これは論理的で正しい戦略でした。実際、DVDレンタル事業は成功しました。
しかし、
ラテラルな発想で:
- そもそも顧客が欲しいのはDVD?それともエンターテイメント?
- 「所有」ではなく「アクセス」に価値があるのでは?
- ストリーミングという全く新しい体験を提供できないか?
この発想転換により、Netflixは映像配信の巨人になりました。
◾️ 理想的な思考法の組み合わせ
では、ロジカルシンキングとラテラルシンキングをどう組み合わせれば良いのでしょうか?
基本は「ロジカル7:ラテラル3」
私の経験上、理想的な比率はロジカル70%:ラテラル30%です。
なぜこの比率なのでしょうか?
まず、ロジカルシンキングが基盤になければ、ラテラルなアイデアも「単なる思いつき」で終わってしまいます。しっかりとした論理的基盤があってこそ、創造的なアイデアも実現可能になります。一方で、30%のラテラルシンキングが、競合との決定的な差別化を生み出します。
状況別の使い分け
ただし、この比率は状況によって変わります:
新規事業開発時:
- ロジカル50%:ラテラル50% : まったく新しい市場に挑戦する時は、既存の常識が通用しません。より多くの創造的発想が必要です。
既存事業の改善時:
- ロジカル80%:ラテラル20% 既に確立されたビジネスの改善では、データに基づく論理的な改善が中心になります。
危機対応時:
- ロジカル90%:ラテラル10% 問題が発生した時は、感情的な判断は禁物。冷静な分析と論理的な対応が最優先です。
実践的な組み合わせ方法
具体的には、以下のようなプロセスで組み合わせます:
Phase 1:ロジカル分析(現状把握)
- 市場データの収集・分析
- 顧客ニーズの定量調査
- 競合分析、SWOT分析
Phase 2:ラテラル発想(可能性の探索)
- 「もし〜だったら?」の仮定思考
- 異業種からのアイデア借用
- 常識を疑う質問の投げかけ
Phase 3:ロジカル検証(実現可能性の判断)
- アイデアの実現可能性検証
- ROI計算、リスク分析
- 実行計画の論理的設計
Phase 4:ラテラル調整(差別化の追求)
- 競合との差別化ポイント発見
- より魅力的な顧客体験の創造
- 予想外の価値提供方法の模索
◾️ 両方の思考法を身につける実践方法
では、どうやってこの理想的な組み合わせを身につければ良いのでしょうか?
ロジカルシンキングの強化法
1. フレームワーク思考の習得
基本的なマーケティングフレームワーク(3C、4P、STP等)を実務で使い込む。ただし、フレームワークに頼りすぎず、状況に応じてカスタマイズする柔軟性も必要です。
2. データリテラシーの向上
統計の基礎知識、データ分析ツールの習得は必須。しかし、数字の奴隷になってはいけません。データの背景にある「意味」を読み取る力が重要です。
3. 論理的コミュニケーション
自分の考えを論理的に説明する力。PREP法(Point-Reason-Example-Point)などの技法を身につけ、相手を納得させる説明ができるようになりましょう。
ラテラルシンキングの強化法
1. 前提を疑う習慣 業界の「常識」を定期的に見直す
「なぜこれが当たり前なのか?」「本当にこのやり方しかないのか?」を自問する習慣をつけましょう。
2. 異分野からの学習
全く違う業界の成功事例を学び、自分の業界に応用できないか考える。読書の幅を広げ、様々な分野の知識を蓄積しましょう。
3. 制約の活用
「予算が半分になったら?」「時間が1/3になったら?」という制約の中でアイデアを出す練習。制約があることで、かえって創造的なアイデアが生まれます。
チームでの実践方法
個人だけでなく、チーム全体でこの思考法を実践することも重要です。
役割分担の明確化
- ロジカル担当:データ分析、実現可能性検証
- ラテラル担当:アイデア発想、差別化提案
- 両方を行き来する調整役
会議の進行方法
- まずロジカルに現状分析
- 次にラテラルでアイデア出し
- 最後にロジカルで実行計画
このステップを踏むことで、効果的な議論ができます。
◾️ 実際のマーケティング現場での活用事例
私が実際に支援した事例を紹介します。
ケース1:BtoB新商品のマーケティング戦略
背景: 製造業のクライアントが新しいIoT機器を開発。しかし、従来のマーケティング手法では思うような成果が得られませんでした。
ロジカルアプローチ(Phase 1):
- 市場規模:IoT市場は年率15%成長
- ターゲット:製造業の工場長・設備管理者
- 競合分析:価格競争が激化、差別化が困難
- 顧客ニーズ:コスト削減、効率化が主要ニーズ
この分析は正しかったのですが、結果は「価格競争に巻き込まれる戦略」しか見えませんでした。
ラテラルアプローチ(Phase 2):
- そもそも顧客が本当に欲しいのは「機器」?
- 「設備の故障を防ぐ安心感」が真のニーズでは?
- 「機器を売る」のではなく「安心を売る」ビジネスモデルは?
結果、製品単体の販売から「予防保全サービス」への転換。機器は実質無料で提供し、故障予防サービスで収益を得るモデルに変更。競合との価格競争から脱却し、高収益を実現しました。
ケース2:ECサイトのコンバージョン率改善
背景:
アパレルECサイトのコンバージョン率が低迷。通常の改善施策では限界が見えていました。
ロジカルアプローチ(Phase 1):
- データ分析:カート離脱率が高い(65%)
- 原因分析:送料、サイズ不安、返品ポリシーが主要因
- 改善案:送料無料化、サイズガイド充実、返品条件緩和
これらの施策で確かに改善しましたが、劇的な変化は得られませんでした。
ラテラルアプローチ(Phase 2):
- そもそも「服を買う」体験って何?
- 実店舗での「試着の楽しさ」をオンラインで再現できないか?
- 「購入」ではなく「体験」を売るアプローチは?
結果、「バーチャル試着パーティー」というオンラインイベントを開発。友達と一緒にバーチャル試着室で服を試し、リアルタイムで意見交換できるサービス。コンバージョン率が従来の3倍に向上しました。
◾️ デジタル時代だからこそ重要な思考法の組み合わせ
AI、データ分析技術の発達により、ロジカルシンキングの重要性は更に高まっています。しかし同時に、人間にしかできないラテラルシンキングの価値も高まっています。
AIとマーケターの役割分担
AIが得意なこと(ロジカル領域):
- 大量データの処理・分析
- パターン認識・予測
- 既存手法の最適化
人間(マーケター)にしかできないこと(ラテラル領域):
- 文脈の理解・感情の読み取り
- 創造的なアイデアの発想
- 倫理的判断・価値観の反映
つまり、AIをロジカルシンキングのパートナーとして活用し、人間はラテラルシンキングに集中する。これが未来のマーケターの姿です。
変化の激しい時代だからこその思考法
市場環境が急速に変化する現代では、過去のデータだけでは判断できない状況が増えています。
コロナ禍がその典型例でした。過去のデータは全く参考にならず、「今までと全く違う顧客行動」に対応する必要がありました。
このような時代だからこそ、ロジカルシンキングで現状を正確に把握し、ラテラルシンキングで新しい可能性を探る。この組み合わせが更に重要になっています。
◾️ 必要だが十分ではない、だからこその組み合わせ
最後にもう一度強調します。
マーケティングにはロジカルシンキングが必須です。これは絶対に変わりません。データドリブンな意思決定、構造化された戦略立案、論理的な実行計画。これらなしにマーケティングで成果を出すことは不可能です。
しかし、ロジカルシンキングは必要だが十分ではありません。人間の感情、未来への洞察、革新的なアイデア。これらはロジカルシンキングだけでは生み出せません。
そして、ラテラルシンキングでその不足を補完できれば理想的です。論理的な基盤の上に創造的な発想を重ねることで、競合を圧倒する戦略が生まれます。
明日からの実務で、ぜひこの考え方を取り入れてください:
1. まずはロジカルに現状を把握する
2. 次にラテラルで新しい可能性を探る
3. 再びロジカルで実現可能性を検証する
4. 最後にラテラルで差別化を追求する
この4つのステップを繰り返すことで、あなたのマーケティングは確実に次のレベルに到達するはずです。
両方の思考法を自在に使い分けられるマーケターになる。それが、この変化の激しい時代を勝ち抜く唯一の方法です。