2025.10.27
営業力

AIを「最強の武器」にする法人営業の教科書:経営者が持つべき「課題起点」の3ステップ

法人営業組織はAIをどう使えばいいのか?── 課題起点で考える3つのステップ

経営者や営業本部長の方から「AIは導入すべきですか?」とよく聞かれますが、結論から言うと必要です。

しかし、闇雲に「AIを使え!」と指示を出しても意味がありません。大事なのは、営業課題を解決してくれるAIをどう使うかなんです。

この記事では、営業にAIをどう入れるか?というテーマで「法人営業のAI活用 3つのステップ」についてお話しします。特に3つ目は、これからの営業組織に必要不可欠なことなので、最後まで読んで、あなたの営業にAIを役立ててください。

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営業組織におけるAIへの「よくある誤解」

AI導入を考える際、多くの人が持つ二つの誤解をまず解きほぐしましょう。

誤解その1:「AIで営業はいらなくなる」のでしょうか?

これはよくある誤解です。実際は逆で、AIは営業の仕事を補完し、付加価値を高めます。営業を仕組み化し、組織全体を強くするのがAI活用の本質なんです。

AIが得意なのは、データ分析やパターン認識、反復作業の効率化です。一方で、人間の営業マンが得意なのは、顧客との信頼関係構築、複雑な状況判断、クリエイティブな提案です。この両者を組み合わせることで、営業組織は飛躍的に強くなります。

誤解その2:「AIさえ入れれば営業が劇的に変わる」のでしょうか?

こう言われがちですが、実はそう簡単なものではありません。AIはとても便利で、もはや避けて通れないツールです。しかし、決して万能の魔法ではありません。

大切なのは、「自社の営業課題は何か」をきちんと理解した上で、その課題を解決するためにどういうAIをどう使うべきか、を考えることなんです。つまり、AIありきじゃなくて、「課題解決ありき」なんですね。AIが流行っているから、という風潮に振り回されないようにしましょう。

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AI導入でよくある失敗パターン

ここで、多くの企業が陥る失敗について触れておきます。AI導入でよくある失敗は「AIありき」で入れてしまうことです。最新のAIツールを導入したけれど、結局誰も使わない...そんな事例を私はたくさん見てきました。

なぜこのような失敗が起きるのでしょうか?

  • 目的が不明確:何のためにAIを入れるのかが曖昧
  • 現場の課題とミスマッチ:実際の営業活動で困っていることと、AIの機能が合っていない
  • 導入プロセスの問題:トップダウンで押し付けられ、現場の理解が得られない
  • 使いこなすためのトレーニング不足:機能は豊富でも、活用方法が分からない

こうした失敗を避けるために、これから説明する3つのステップが重要になります。

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ステップ1:AI導入の第一歩は「営業課題の特定」

AI導入で最初にやるべきことは、ツール選定ではなく「課題の明確化」です。ここを曖昧にしたまま導入すると、どんなに優れたAIでも成果は出ません。営業課題には、企業や業界のフェーズごとに違いがあります。

例えば――

  • 製造業:案件が属人化していて、失注リスクが見えづらい
  • SaaS企業:新人の育成にばらつきがあり、ノウハウが共有されない
  • 商社・卸:新規開拓のリード獲得が非効率
  • 専門サービス業:営業の教育コストが高い

このように「ボトルネック」を特定することが、AI導入の出発点です。AIは課題解決の手段であって、目的ではありません。この"順番"を間違えると、組織全体が混乱します。

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ステップ2:課題別にAIをどう使うかを設計する

次に考えるべきは、「どのAIを、どの業務に使うか」という設計です。法人営業では、AIが特に効果を発揮するのは次の3つのエリアです。

① 顧客インサイトの発見

AIは過去の商談データやCRM情報を分析し、「契約の兆候」や「解約の予兆」を見つけることができます。

事例:SaaS企業の場合

AIが「解約予兆のある顧客」を検知 → 営業が早期にフォロー → 解約率を10%改善。

つまり、AIは"顧客の行動を先読みする営業アシスタント"になるのです。

② 営業プロセスの効率化

提案書やメール文面の自動生成、要約、データ整理など、時間のかかる定型業務はAIに任せましょう。たとえば、ChatGPTやGeminiなどの生成AIを活用すれば、業界ニュースの要約や競合比較表を数分で作成できます。今まで3時間かかっていた提案資料を30分で仕上げられれば、残りの時間を「商談の質向上」に充てられます。

③ 営業チームのマネジメントと育成

AIは"部下の壁打ち相手"にもなります。例えば、AIを使ったロープレで若手営業のトークスクリプトを改善したり、録音した商談をAIに分析させて「顧客が反応したポイント」を抽出したりできる。さらに、本部長レベルではAIに各営業担当の「受注確率スコア」を算出させ、重点顧客へのリソース配分を最適化できます。これはまさに、"勘と経験に頼らないマネジメント"の実現です。

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ステップ3:AI導入の意味を"社員に理解させる"

AI導入の本質は、ツールの導入ではなく"文化の導入"です。多くの企業で失敗する理由は、社員が「AIは人を減らすもの」と誤解していること。AI導入の目的は、人を減らすことではなく、「人の価値を高めること」です。

AIに定型業務を任せ、人間はより創造的で判断力のいる仕事――たとえば、顧客の課題を洞察し、提案を磨き、信頼を築くこと――に集中する。これが理想の形です。

社員に浸透させる3つのコツ

  1. 導入目的を具体的に伝える
    例:「提案資料の作成時間を半減」「新規リードの質を上げる」など。
  2. 期待する成果を数値で示す
    AI導入後に測定できるKPIを設定することで、成果が"見える化"される。
  3. 現場の声を取り入れて改善する
    「トップダウン導入」でなく、「現場巻き込み型」が成功の鍵です。

AI導入とは、単なるシステム投資ではなく、社員の意識改革プロジェクトなのです。

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業界別:AI導入のヒント一覧

業界 主な営業課題 活用できるAIの例
製造業 見込み顧客の発掘 予測分析AIで新規案件の確度をスコア化
SaaS 解約率が高い 機械学習で利用ログから解約予兆を検出
商社・卸 新規開拓が非効率 リードスコアリングAIで優先顧客を抽出
専門サービス 営業育成が難しい AIロープレで即時フィードバックを提供

業界ごとに課題は異なります。だからこそ、「うちの課題にはどのAIが合うのか?」を見極めるのが経営者・本部長のリーダーシップです。

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経営者・営業部長が持っておくべき6つのヒント

最後に、AI導入を成功に導くために、経営者・営業部長が持っておくべき6つのヒントを紹介します。

  1. 攻めと守りの両面に使えること

    新規開拓(攻め)と解約防止(守り)をAIで両輪にする。多くの企業は「新規獲得」ばかりに目が行きがちですが、既存顧客の維持も同じくらい重要です。AIを使えば、両方を高いレベルで実現できます。
  2. 営業の属人性を排除できること

    経験と勘に頼らず、仕組み化する。「あの営業マンがいないと回らない」状態は、組織として脆弱です。AIを活用してナレッジを蓄積・共有し、誰でも一定レベルの営業ができる体制を作りましょう。
  3. AIは万能ではなく補助に過ぎないこと

    最後の信頼構築は人間の役割。AIがどんなに進化しても、最終的に契約を決めるのは「人と人との信頼関係」です。AIはあくまで営業マンを強化するツールであり、営業マン自身の成長が不要になるわけではありません。
  4. データの質を整えること

    CRMやSFAに正しく入力されていないと、AIは機能しません。ゴミを入れればゴミが出る(Garbage In, Garbage Out)という言葉があります。AIの精度は、元データの質に大きく依存します。
    • 入力ルールを明確にする
    • データクレンジングを定期的に行う
    • 入力しやすいUI/UXのツールを選ぶ
    • データ入力を評価項目に含める
  5. 経営者が旗を振ることの大事さ

    現場任せだと「便利ツール止まり」で終わる。AI導入は、組織変革です。現場だけに任せていては、既存のやり方に引っ張られて中途半端に終わります。
    • 明確なビジョンを示す
    • 予算とリソースを確保する
    • 定期的に進捗を確認する
    • 障害を取り除く
  6. 小さく試して早く回すこと

    全社導入よりも、まずは特定チームでトライアル。
    1. パイロットチームを選定:意欲的なメンバーがいるチームで試験導入
    2. 短期間で効果測定:3ヶ月程度で成果を確認
    3. 学びを抽出:何がうまくいき、何が課題だったか整理
    4. 改善して横展開:学びを活かして他チームにも展開

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まとめ:AIは営業を強くする武器

AIは営業を置き換えるのではなく、営業を"進化させる"武器です。ただし、AIありきではなく課題起点。業界ごとに課題を整理して、最適なAIを導入すること。これこそが、経営者と営業本部長に求められるリーダーシップです。

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今日から始められる3つのアクション

  1. 現場の課題を書き出す:営業チームが抱えている課題をリストアップしましょう(会議で30分あれば十分です)。
  2. AIツールをリサーチする:自社の課題に合いそうなAIツールを3つ程度ピックアップしましょう。
  3. 小さく始める:まずは無料トライアルや小規模導入から始め、効果を確認しましょう。

AI活用は、もはや「やるかやらないか」ではなく、「いつ、どう始めるか」の段階に来ています。

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この記事については以下の動画でも説明していますので、参考にしてください。

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執筆者

マーケティングアイズ株式会社 代表取締役 理央 周(りおう めぐる)
家電メーカー、石油会社、大型車両メーカー、高機能フィルムメーカー、建築部品メーカーなどに、新規事業立ち上げ・ブランド構築のコンサルティングと、顧客視点の顧客文化にするマーケティング社員研修を提供。 2013年より2024年まで、関西学院大学 経営戦略研究科で教授を務める。
著書は「売れない問題 解決の公式」(日本経済新聞出版)など国内外で24冊。米国、台湾、香港など海外でも講演。テレビ、ラジオの出演や新聞・雑誌への寄稿も多数。YouTubeでも最新のマーケティング情報を発信中。 本名 児玉洋典 

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